「戦える権利」
その日は、いつもと変わらない朝だった。
都市の空は薄く曇っていて、ニュースは無音のまま流れている。
ただ一つだけ、いつもと違うものがあった。
——机の上に置かれた、黒いカード。
「……なんだこれ」
カードには名前もない。ただ一行だけ、文字が刻まれていた。
《戦闘権限:付与対象》
意味が分からないままカードを裏返すと、次の瞬間、部屋の空気が変わった。
視界の端に、赤い枠が走る。
《登録完了》
《対象:佐倉 恒一》
《戦闘機構へ接続します》
「は?」
声を出した瞬間、床が消えた。
落下。
落下ではなく、“転送”だった。
目を開けると、そこは巨大な円形の空間だった。
地面は金属でも土でもない。白い光の板。
空はないのに、天井の高さだけが異常にある。
そして、目の前に一人。
仮面をつけた男が立っていた。
「初回戦闘、開始」
「ちょ、待て——」
その言葉は最後まで届かなかった。
男が動いた瞬間、視界が裂けた。
速い、ではない。
“理解できない”。
次の瞬間、胸に衝撃。
床に叩きつけられる。
呼吸ができない。
《戦闘リミット:3分》
《勝利条件:相手の行動不能》
(無理だろ、これ……!)
相手は迷いなく追撃してくる。
攻撃は全部「最短で殺すため」に設計されている。
防ぐ余裕がない。
避ける余裕もない。
——負ける。
そう思った瞬間だった。
《記録保存開始》
「……え?」
視界に文字が流れた。
《戦闘データ記録:1回目》
殴られる角度、呼吸のタイミング、視線の動き。
すべてが“焼き付く”。
そして、思考だけが異常に冷える。
(こいつ、次に来るのは——)
拳が来る方向が“分かる”。
体が勝手に動いた。
ギリギリで避ける。
仮面の男が一瞬止まる。
「……初見回避?」
主人公は気づく。
(これ、能力じゃない)
(“記録”だ)
戦闘はまだ終わっていない。
だが、確実に何かが変わった。
新シリーズです。ぜひ読んでください。




