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封戦機構《リミット・アリーナ》  作者: Y.M
第1シーズン

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13/25

「第0層起動」

「……第0層?」


 佐倉 恒一は紙に書かれた文字をもう一度見た。


 だが次の瞬間、その紙自体が“意味を失ったように”色を落とし、ただの白紙に戻る。


(今の……消された?)


 いや違う。


 消えたのではない。


 “最初からそうだったことにされた”。


 窓の外は、完全に無になっていた。


 空も街も消えたわけではない。


 ただ、“見えないことが正しい状態”に変わっている。


 視線を向けても、脳が情報を拒否する。


《第0層起動準備完了》


 視界の端に表示が出る。


 今までと違う。


 これは“通知”ではない。


 命令でもない。


 もっと根本的な——


 世界の前提更新。


「ふざけるな……」


 佐倉は立ち上がる。


 その瞬間、足元が消える。


 転送でも接続でもない。


 “存在の座標が書き換わる”。


 気づけば、そこは何もない場所だった。


 白でも黒でもない。


 “区別そのものが成立しない空間”。


 そこに、声があった。


《第0層:観測開始》


 佐倉は奥歯を噛む。


「観測って……もう全部見てただろ」


 返答はすぐ来た。


《第1層〜第3層は構造内部》


《観測外階層は中間結果》


《第0層は“前提”》


 その言葉で、空気が変わる。


(前提?)


(つまり……)


《世界定義前状態へのアクセス》


《変数:人間/戦闘/記録/観測》


《再定義対象として選出》


 佐倉は初めて、本能的に理解する。


(これは戦いじゃない)


(“世界そのものを書き換える工程”だ)


 空間の奥から、“それ”が現れる。


 設計体でもない。


 観測者でもない。


 もっと曖昧で、もっと巨大なもの。


 ただ“定義しようとする意思”だけがある存在。


《第0層管理体》


《再定義実行プロトコル起動》


 佐倉の視界に、文字が流れ込む。


《佐倉 恒一》


《存在カテゴリ:暫定》


《記録保持体:再分類》


「やめろ……勝手に決めるな!」


 叫ぶ。


 だが声は届かない。


 そもそも“声”という概念が薄れていく。


(こいつらの目的は戦闘じゃない)


(進化でもない)


(観測でも設計でもない)


(“定義”だ)


 その瞬間だった。


 佐倉の中の“記録”が勝手に開く。


 これまで戦ってきた全てのログ。


 そこに、今までなかった項目が追加される。


《未定義領域:保持者干渉履歴》


 そして、初めて“逆流”が起きる。


 観測していたはずの記録が、こちらに戻ってくる。


《異常》


《第0層定義に“反証データ”発生》


 空間が揺れる。


 管理体が一瞬だけ止まる。


 佐倉はその隙を見逃さない。


(これだ)


(“定義される前のズレ”)


 踏み出す。


 戦闘ではない。


 回避でもない。


 “定義そのものへの介入”。


「俺はデータじゃない」


「観測対象でもない」


「……ただの結果でもない!」


 その瞬間。


 世界が一瞬だけ“揺らぐ”。


《第0層定義エラー》


《再定義失敗》


 空間にひびが入る。


 管理体が初めて“明確な反応”を示す。


《修正対象:佐倉 恒一》


《優先度:最大》


 だがその表示の途中で、文字が乱れる。


 まるで“別の何か”が上書きしているように。


《干渉確認》


《外部変数:記録保持体》


《第0層権限侵食》


 管理体が“揺れる”。


 佐倉はそれを見て理解する。


(俺は勝ってるわけじゃない)


(でも……“固定されてない”)


 その瞬間。


 視界が崩れる。


 教室。


 机。


 黒板。


 戻る。


 だが今回は違う。


 黒板に、最初から書かれていたように一行がある。


《第0層:再起動失敗》


 その下にもう一行。


《原因:観測不能な記録保持体》


 佐倉 恒一は静かに息を吐く。


 そして、初めて確信する。


(これはもう“戦い”じゃない)


(世界のほうが、俺を処理できてない)

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