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封戦機構《リミット・アリーナ》  作者: Y.M
第1シーズン

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14/25

「処理不能」

《原因:観測不能な記録保持体》


 その一行を見た瞬間、佐倉 恒一は逆に冷静になった。


(処理不能……ってことは)


(まだ“処理しようとしてる側”がいる)


 つまり終わっていない。


 世界はまだ、自分を“どう扱うか”を決めきれていない。


 教室はいつも通りだ。


 授業も進んでいる。

 周囲の生徒も普通に笑っている。


 だがその全部が、薄い膜一枚隔てた別世界に見える。


(ここだけ切り離されてる)


(俺だけが“別枠”になってる)


 そのときだった。


 視界の端に、今までにない通知が出る。


《第0層:修正会議要求》


「修正……会議?」


 佐倉は眉をひそめる。


 今までの流れなら、即時削除か再定義だったはずだ。


 “会議”なんて概念はおかしい。


 次の瞬間、空間が一段だけ“ズレる”。


 教室の中に、机がもう一列増えた。


 最初からそこにあったように。


 そこに、複数の“存在”が座っている。


 設計体。


 観測者。


 そして、第3層で見た“ルールの欠片”。


 さらに、その上位らしき曖昧な影。


 全員が、同じテーブルにいる。


《第0層修正会議:開始》


 声が響く。


 だが誰の声でもない。


 ただ“合意形成そのもの”の音。


 観測者が最初に口を開く。


《記録保持体の存在が、全階層に干渉》


《第1層戦闘は学習崩壊》


《第2層観測は逸脱増幅》


《第3層設計は矛盾発生》


 設計体が続く。


《再定義試行は失敗》


《削除プロトコルも不安定化》


 沈黙。


 そして、最上位の“影”が動く。


《結論:単一処理不能》


 佐倉はその言葉を聞きながら、少し笑いそうになる。


(単一処理不能)


(人間に使う言葉じゃないだろ)


 だが次の言葉で、空気が変わる。


《提案:分割処理》


「分割?」


 佐倉が口にした瞬間、全員の“視線”が一斉に向く。


《記録保持体を“複数状態”として再定義》


《観測・戦闘・設計・結果への分離》


 佐倉の頭に、嫌なイメージが浮かぶ。


(俺を……分解するってことか)


 設計体が淡々と続ける。


《一体のままでは干渉過剰》


《機能分割により安定化可能》


 観測者が補足する。


《戦闘適応部分のみ第1層へ戻す》


《記録保持部分を第2層へ固定》


《異常干渉部分を第3層へ隔離》


 佐倉は拳を握る。


「ふざけるな」


 だが声は届かない。


 議論は“佐倉の意志”を前提にしていない。


(こいつらにとって俺は)


(人間じゃなくて“構造物”か)


 そのときだった。


 今まで沈黙していた最上位の影が言う。


《補足》


《第0層においても矛盾あり》


 空間が静まる。


《“分割しても残るもの”が存在する可能性》


 設計体が一瞬だけ止まる。


 観測者も止まる。


 初めて“迷い”が発生する。


 佐倉はその隙を見て理解する。


(これだ)


(俺の“バグ”はここにある)


「分割しても無理なんだろ」


 佐倉は静かに言う。


「俺は“そういう存在”じゃない」


 空間が揺れる。


《再評価》


《記録保持体:分割不可》


《理由:未定義》


 会議体がざわつく。


 初めて“未定義”という単語が出る。


 佐倉は一歩前に出る。


「じゃあどうするんだよ」


「削除もできない、分割もできない」


「観測も設計も壊れる」


「それでも俺はここにいる」


 沈黙。


 その瞬間、世界が一瞬だけ“止まる”。


《最終決定保留》


《第0層:再検証へ移行》


 空間が崩れる。


 会議が消える。


 教室に戻る。


 何事もなかったように。


 だが机の上にだけ、新しい文字が残っていた。


《対象:保留個体》


《分類:例外ではなく“未確定法則”》


 佐倉 恒一はその文字を見て、ゆっくり息を吐く。


(俺はもう敵でも味方でもない)


(“ルールそのものになりかけてる”)

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