第4章 光と闇の対決(4-1)
奥社へ続く石段を一段一段踏みしめて登りながら、なぜか瑠璃は不吉な違和感にとらわれていた。
もともと暗くて足下以外周囲の様子は分からないのだが、吹き下ろす風にぬめりを感じ、不快な汗が額を流れ落ちる。
胸の勾玉も息切れしたかのように点滅を始めた。
――まだ着かないのかしら。
瑠璃の肩に止まる梟の光を頼りに、もうどれだけ登ってきただろう。
疑問が脳裏をかすめた時だった。
キィ……キキィ……。
梟の鳴き声に異質な音が混じる。
鋭く、耳に刺さるような音。
瑠璃は足を止め、肩に止まる白い光に目をやった。
「あなた……本当に梟なの?」
その瞬間、白い光の球がまるで嘲笑うように歪む。
キキッ、チキキ……。
突然、森の闇から黒い霧が湧き上がり、光の球を飲み込むように渦を巻いた。
霧は粘つくような冷気とともに瑠璃の周囲を這い、木々の間を不気味に舞う。
瑠璃の肩を離れた白い光が霧の中で揺らぎ、裂けるように黒い影へと変貌したかと思うと、闇の奥で目を赤く光らせ、鋭い牙を剥き出しにしたコウモリの大群に分裂した。
「騙したのね!」
石段を戻ろうとする瑠璃の周囲を、キィキィと不気味に笑いながらコウモリがかすめ飛ぶ。
勾玉が激しく脈打ち、光の衣が白く瞬くが、霧の闇がそれを押し潰すように重くのしかかる。
――息が……。
コウモリの渦に取り巻かれ、次第に気が遠くなっていく。
「苦しいかい」
聞き覚えのある声に一瞬意識が戻る。
「あなたは……霧島沙夜」
「覚えていてくれて光栄だねえ」
妖艶な声とともに黒装束をまとった霧島沙夜が姿を現した。
赤い勾玉が首元で不気味に輝き、唇に冷酷な笑みが浮かぶ。
「どうしてあなたが? 梟は悠真さんの眷属のはず」
震える瑠璃の声を嘲るように沙夜は首を振った。
「光の化身なんて気取ってるけど、しょせん愚かな娘だね。あの梟は我が闇月一族のコウモリが化けたもの。黒い霧で光を装い、あんたを誘い込むための罠よ。まんまと引っかかって、滑稽だねえ」
――悠真さん。
「九条悠真?」と、心を読み取ったかのように沙夜が鼻で笑う。「あんな月神に縛られた裏切り者。あんたの光がなけりゃ、我々の闇の前では無力。返り討ちにしてやるよ」
瑠璃は胸に手をやった。
が、あるはずの物がない!
麻紐をコウモリの翼に切られたのか、勾玉がない。
「おやおや、どこまで抜けてるんだろうね。粗末な紐で吊してるからさ、疫病神さん」
沙夜の声が美津子や彩花の罵声と重なる。
私はやっぱり……何もできない疫病神なの?
沙夜が闇に手を振ると、コウモリの群れが再び瑠璃を取り巻き、闇を暗黒で塗り重ねていく。
深い闇に穴が開き、瑠璃は声も出せぬまま虚無の底へと引きずり込まれていった。




