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ダンジョンコンサルタント  作者: 栁屋 なぎ


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19.変異種


「さて、行こうか」


 回復薬(ポーション)のお陰で完治した体を起き上がらせる。患部に掛けず飲む事によって、全体的にじわじわ回復していき、この通り昨日ボコボコにされたのが嘘のようだ。


「あ、そうじゃ。お主のおかげで、さっそく強い冒険者と戦えたわい、礼を言うぞ」


 感謝に少し違和感を覚える。と言うのも、ダンジョンを変えてからあまり日が経ってない。宝物庫の噂で冒険者が来るのはまだ先のはずだが……。もしかしたら森の調査に冒険者が来たのかもしれない。早く森を正常化させないと、強い冒険者がニャディーのダンジョンに来るのは時間の問題だ。


「あやつはなかなか楽しめたわい。あと少しで逃げられてしまったのが残念じゃったが」


 このデスナイトといい勝負ができるとは、にわかに信じられないが、やはり上には上がいるものだ。


 挨拶も中程(なかほど)にデスナイト先輩のダンジョンを後にする。昨日に引き続き、本命のダンジョンに向かって進み出す。相変わらずモンスターのエンカウント率が高いが、その分目的地まであと少しだと自分を鼓舞しながら淡々と歩く。


「やっとついた」


 洞窟というより、トンネルのように綺麗に掘られた穴からは、モンスターがちょうど外に出ていくところだった。

 それだけだと、ただの洞窟にモンスターが棲みついてる可能性もあるが、目の前のトンネルには入り口を少し入った所で、モヤがかかって中が見えなくなっているので、ダンジョンと見ていいだろう。


「見つけたはいいが、どうやって話し合いまで持っていくかだよな」

「ぜ、前回は急に襲われましたからね」


 まだデスナイト先輩の方が直接ボスに会えたからマシだ。

 今回はモンスターが頻繁に出てくるダンジョンへの訪問だ。無双できるわけではないので、必然的にモンスターと戦うことになる。


 できるだけ穏便に、それでいてボスに話を持っていく方法を考えていると、ふとアイデアが降りてくる。


「もしかしたら行けるかも?」


 ものは試しと、出掛ける前に渡された残りのDPを使い、紙とペンを用意する。




「よし、こんなところかな」

「え、えっと……『幸福の手紙!この紙を見た方限定で、簡単に儲かる方法教えます!とあるアンデットのダンジョンも大絶賛!!後日お話に伺うので、モンスターを配置せずお待ちください』……よく、こんな文を思いつきますね」


 胡散臭さ漂うチラシが出来上がった。元の世界なら騙される人の方が少ないだろうが、まだ耐性のできていないこの世界なら、もしかしたら騙されるかもしれない。


 騙すも何も、そもそも嘘はついてないのだが……。


 それはともかく、内容だけ見れば心理的に惹きつけるポイントが詰まっているものだ。限定の言葉や、選ばれた事による特別感。簡単、実体験があるようなニュアンスで、行動までのハードルを低くし、求めやすくなる。


 エコレは見落としているが、右下に小さく(当社調べ)の文字も入れているので、なおさら嘘では無い。


「とりあえずこれをダンジョンの中に置いて、見てもらえるように騒ぎを起こせば……」

「さ、さわぎ?」




「突入!!」


 たった今、重い足取りでオークが出て来るのを確認する。近くの岩陰に隠れて観察していると、一度モンスターが出て行けば1時間くらい次のモンスターが出てこない事がわかった。


 オークの姿が見えなくなった頃、トンネルのモヤを潜(くぐ)り突入する。


 トンネルの中は剥き出しの土壁で、ヒンヤリとした土の匂いが鼻をくすぐる。不思議と暗さを感じることは無く、視界には困らずにいた。


「そ、そこトラップあります」


 しかし入ってそうそうにトラップが至る所に仕掛けられている。トラップは1度発動や解除をすると、また設置し直さないといけないため、めんどくさいしコスパが悪いとは思うのだが……。


「これで何個目だ」

「さ、殺意が高いですね」


 一本道のトンネルにはモンスターは何故か見当たらない。当初の計画では道中で紙を貼り付けて、モンスターを粘着弾(グルーショット)で固めた隙に逃げ出せば、ボスが様子を見に来ると思ったが、こうもモンスターが居ないのは嬉しい誤算だ。


 しかしトラップの数が数だ。トンネル内に敷き詰められた罠は、矢が飛んでくる一番安いタイプの物がほとんどだが、10歩進めば次の罠が出てくるほど数が多い。優秀な斥候(スカウト)のエコレが居なければ、怪我ではすまなかっただろう。


「つ、強い気配がこちらに来ます!」


 罠を的確に解除していると、奥の方から重たそうな足音が近づいてくる。まだ1階層だがここのボスだろうか?


「へへ、やった。冒険者だ!!俺の運はまだ捨てたもんじゃない!」


 姿を表したのは普通のサイズよりも二回りほど大きいオークだ。しかしその大きさよりも異彩を放っていたのは、腕の数だろう。


 目の前のオークは2対3の腕を生やし、全ての腕が太もものような太さを誇っている。

 それぞれ武器を持ってないのは幸(さいわ)いだが、近づいてくると、より一層の威圧感がある。


「へ、変異種……」


 エコレから溢(こぼ)れた言葉が気になるが、今は無視して目の前の複腕のオークに対応する。


「私達は冒険者ではありません。別のダンジョンからやってまいりました。この度あなた様に特別サービスとして、この様な事をやっています」


 気圧(けお)されるのを気合いで押し込み、先程作ったチラシをオークに差し出す。


「見たところ、モンスターを外に出しすぎて、ダンジョンの中で増えていない様子。それは実にもったいない……」

「騙されないぞ!お前は冒険者だ!それにアレはわざとだ!お前みたいな冒険者を呼び込む為の罠だ!」


 チラシなど見向きもせず、翔護(しょうご)に襲いかかる。


「高ランクの冒険者を呼び込んで、罠と俺で確実に殺す!」


 繰り出された拳はそこまで早くない。ニャディーやデスナイト先輩との稽古で、スピードになれてる身としてはギリギリ避けられる。しかし、空を切る鈍い音は、当たればただじゃすまないと教えてくれる。


「高ランクだろうが、罠があれば怖くない!お前を殺して俺はもう一度やり直すんだ!」


 周囲の状況や、今の発言から複腕のオークが抱えてる問題を推測する。


 冒険者を誘い込むのは、単純にDP欲しさだろう。モンスターが居ないとDPも増えていかないので、収入源は冒険者だけになる。罠の数的にも収入と支出が釣り合っていないので、DPが枯渇してると見ていい。

 そうなるともう一度やり直すとは、冒険者を倒しDPを稼いで、現状を変えたいと思っていると考えれば辻褄が合う。


「ここのダンジョンマスターと話をさせてください。DPの増やし方で力になれると思います!」

「俺がここのマスターだ!お前も俺に借金を負わせるつもりだろ!もう騙されないぞ!」


 どうやらこのオークも借金をしているみたいだ……。


「借金なんかより、もっとためになる「うるさい!!」」


 言葉を遮るように、再び拳が飛んでくる。

 ギリギリで拳を躱し話しかけるも、オークは話す気が無いのか目の色を変えながら襲ってくる。


「話し合いは無理か。一旦退(ひ)こう!」


 説得を諦めて、罠を解除してある後へ戻る。


 複腕(ふくわん)のオークは釣られるように追いかけて自分の罠を踏み抜く。飛んでくる矢が刺さっても気にせずこちらへ向かってくる。

 怯(ひる)むことなく向かってくる姿に、慌てて新しい魔法を撃ち出す。


「『粘着弾(グルーショット)』」


 砂や石が少ないこのトンネルでは、期待通り足がくっつくだろう。

 足を狙って放たれた『粘着弾(グルーショット)』は、片方の足を地面に固定する。エコレの射撃と、追加の『水弾(ウォーターバレット)』は顔を捉(とら)え、足と地面を固定するまでの時間を稼ぐ。


「い、いでぇぇ!!!くそ!待てぇ!」


 顔を抑える複腕のオークを背後にし、出口へ走り込む。


「だ、大丈夫ですか?結局モンスターが出てくるのを止められなかったですけど」

「しゃーない、俺たちだけじゃオークを止められない。冒険者が来ても負けないダンジョンを作ろうか。できる事をやるしかない」


 モンスターを止められなかったのには悔いが残るが、無駄に命を賭ける事もない。ニャディーの所へ戻ることにする。




「……おかしい」


 オークの姿が見えなくなった頃、エコレがボソリと呟く。


「何か言った?」

「そ、そろそろ出口が見えてきてもおかしく無いんですけど……」


 言われてみれば、そこまで奥に入ってないはずだが、未だに出口が見えてこない。

 得体の知れない胸騒ぎを感じ、背筋に冷や汗が滲(にじ)む。


「追いついたぞ」


 背後から複腕のオークの声が聞こえた。


「言っただろ。罠(・)と俺で確実にお前を殺すと。このダンジョン自体が罠だ!逃がさないぞ!」


 驚いて振り向くと、目の前にはすでに拳が迫っていた。


「ッ!」


 反射的に腕をクロスさせて防御するが、それだけで守れるほど、やわな攻撃ではなかった。

 爆発したような音と衝撃を身にまとい、後方へ吹き飛ばさ

れる。


「しょーごさん!!」

「へへ!まずは一匹!」


 吹き飛ばされた衝撃で霞む視界の中、ヘイトがエコレに向くのがわかった。


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