18.稽古
「さぁさぁ、この短時間でどこまで変わったか見せるのにゃ!」
ニャディーに稽古の申し入れをすると、すぐに稽古を始めることになった。
「そのニヤケ面、いつまで続くかな」
クロとエコレが見守る中、魔法が暴発してもいいように、小屋から少し離れたところでニャディーと向かい合う。
「そ、それでは……はじめ!」
エコレの声と同時に手を銃の形にして、ニャディーへ狙いを定める。
報告も兼ねているので、ニャディーもすぐに攻めて来ず、様子見をしていた。
「『水弾』!」
早速、実験の成果を打ち出す。
指ほどの大きさになった水球が、猛スピードでニャディーへ放たれる。
「あぶにゃっ!」
2発はニャディーの横に逸れ、最後の1発がニャディーの頭めがけて飛んで行く。しかし、驚異的な反射速度でしゃがんで躱されてしまう。
「粘着弾!」
「良かったけど、まだ甘い……にゃ?!」
しゃがむと見越して放たれた、本命の魔法がニャディーの足に当たる。
「フッ!」
畳み掛けるように、渾身の鋭い突きをニャディーへ繰り出す。
「にゃ?!」
普段なら全力で突き出しても、簡単にいなされてしまうが、ニャディーの足が地面にくっつき体勢がくずれる。
その一瞬の隙を見越して繰り出された突きは、ニャディーの首元に的確に吸い込まれていく。
「そいにゃ!」
決まった!と、気が緩んだ瞬間に棒を握られる。そのまま引っ張られ、バランスを崩した所をニャディーに捕まえられた。
気がつけば空を見上げており、少し遅れて痛みが背中を走った事で、投げ飛ばされたんだと理解した。
「だぁーまけたー」
「いやー、初めて負けるかと思ったにゃ。強くなったにゃ!」
そう言いながらメキメキと地面に固定された足を剥がしていく。
ソレ結構な強度のはずなのだが……。いや、草も一緒に抜けてるので、単純に固定されてる場所が悪かったのか。
「それより、さっきの水球はどうやったんだにゃ?!あんな早く飛ばせるなんてすごいにゃ!」
そもそも水球は質量をぶつける魔法なので、スピードもそこまで出ず当てるのが難しく、使い勝手が悪い魔法だった。
そこでありきたりだが、サイズを小さくし回転を加え、銃弾の様にする事で、スピードと安定性に特化した水弾が出来上がった。
「それに銃弾の形は理にかなっていて、空気抵抗や弾が通った後の気流の流れ方や……「難しい話はいらないにゃ。それよりあのくっつくのはにゃんなのさ」」
オタクを全開にしすぎて、ニャディーに強引に話をそらされる。
「あぁ、あれは瞬間接着剤を参考に創ったやつだよ」
強い敵とエンカウントしても、必ずしも倒す必要はない。 そりゃ倒せるなら倒したいが、無理してコチラが死んでしまっては元も子もない。足止めさえ出来れば、生きて帰れる確率は高くなる。
それに動きを止められれば、逃げだけでなく攻めにも使える。
本当は電撃とかで痺れさせれるならいいのだが、生憎電気の魔法はとんでもなく高い。
他の属性で相手の動きを止められるとすれば、水魔法しか思いつかなかった。土魔法で壁を作っても力で突破されそうだし……。
「いくら動きを封じても、一歩も動かずに負けるとは思って無かったけど」
「にゃーは強いからにゃ!」
やはり使ってみないと問題は見えてこない。実験の段階では強度もあっていいと思ったけど、今のように足だけ固定しても、強い敵には通用しないし、固定する場所も土の上だと土だけがくっついて意味が無くなってしまう。
「やっぱ関節を狙うか?でも瞬間接着剤は曲げに弱いからな……強度?いや、シリコンみたいなゴムみたいにするか?それだと固まるまで時間が……」
「にゃにをブツブツ言ってるにゃか」
まだ改善の余地はありそうなので、時間がある時に実験を
続けよう。
「それで、明日は早速ダンジョンに向かうのかにゃ?」
「あ、忘れてた……。新しい魔法もできたし、行ってくるよ。早めに行ってモンスターを止めないと、冒険者が来ちゃうからね」
稽古が終わり、早速ダンジョンに向かうための準備に取り掛かる。
ニャディーから新しい槍を貰い、回復薬をストックする。飲んだら全身、患部にかければ集中的に治る優れものだ。それとは別に、さっき思いついた物を作り、適当な空き瓶に詰めていく。もしかしたら役に立つだろう。
「これで準備OKだにゃ、最後に余ったDPを渡しとくにゃ」
自分の強化や、モンスターの補充。出掛ける準備をしたらあっという間にDPが底を尽いてしまった。残ったDPも少しだけなので大切に使おう。
新しい魔法を覚えたことにより、モンスターを傷付けることなく階層を降りていける。まぁ魔力が多くないので数回撃てば魔力切れになるため、危ない時以外は使ってないのだが。
「き、来た時はここまで簡単に降りれなかったのに……」
「地形が頭の中に入ってるしね、それに末鬼のおかげでゴブリンは戦わずに済むのもデカイね」
ニャディーが無事説得してくれたようで、自分とエコレは戦わずに済んでいる。無駄な労力を避けるのはありがたい。
無事ニャディーのダンジョンから出て、モンスターを垂れ流しにしているであろうダンジョンへ向かう。
エコレの索敵の元、強い敵は迂回して無事前回来たデスナイト先輩のダンジョンに到着する。
「こ、これからはまだ未開の地なので、ペースを落として行きますね」
少し進むと、相変わらずゴブリンなど弱いモンスターが溢れている。
進めば進むほど数は増え、今まで回避していたDランクのオークやクレイジーボアなど、回避できないほど徘徊していた。
幸いエコレの索敵で先に見つけられるので、罠をしかけ先制攻撃でダメージを与えつつ罠へ誘導する事で、何とか討伐できていた。
おかげでこちらに被害はないが、ペースはかなり落ち目的のダンジョンを発見する頃にはだいぶ日が落ちていた。
「こ、このままでは、野営をする事になりそうですね。しょうごさんは野営の経験ありますか?」
「いや、全くないな。交代で見張りとかするんでしょ?」
「そ、それもありますね」
「正直索敵とか自信ないから、野営はしたくないな……。それにここはモンスターの密度も高いみたいだし」
ただでさえ経験がないのに、モンスターが闊歩する所でいきなり野営をするのは自殺行為だろう。
かと言ってニャディーのダンジョンまで戻るにしても、時間もなければ、せっかくここまで来た意味もない。
「で、デスナイトさんのダンジョンで、1泊させてもらえないですかね」
「んー、他に方法もないし、ダメで元々聞いてみるか」
もしダメでも、ここよりはモンスターの密度が低いので、野営がしやすいだろう。
そうと決まれば来た道を引き返し、デスナイト先輩のダンジョンまでやってきた。前回後にしてからそれほど時間が経っていないので、少し気まずいが……。
意をけして、渦に潜り込むと奥へ続く道が現れ、壁には宝物庫へと続く扉が設置されている。
この前のように急に襲われることは無いので、特に警戒もせずに歩いていく。
少し歩くと広い部屋に着き、生気を感じない森が見え、中央には崩れた墓石にデスナイト先輩が鎮座していた。
「なんじゃ、お主たちか。新しい冒険者かと思って期待したわい」
「すみません。実は折り入って頼み事がございまして……」
事情を説明しすると、快く承認してくれた。
「ただし、条件がある。ワシと1戦交え。見たところお前さん、前に会った時より何か変わったようじゃの。なに、殺しはしない」
どうやら魔法が使えるようになったことを、何となく感じているようだ。いつの間にか握られてるのは剣ではなく、木刀みたいなので、本当に殺されはしないだろう。
格上と命を賭けずに戦えるのは、有難いことだとポジティブに捉え、新調した槍を構える。
「よろしくお願いします」
「心意気やヨシ。胸を借りる気で来い」
ニャディーにも最初だけ通じた、粘着弾を試してみよう。
「約束は約束だ。好きな場所でねるが良い」
「あ、ありがとう、ございます」
無事寝る場所確保でき、倒れるように横になる。
勝負?全然攻撃が通用せず、ボッコボコにされただけだ。
「だ、大丈夫ですか?」
エコレに差し出されたポーションを飲み切り、傷の回復を早める。まさかここまで弾系が通じないとは……。
高速で打ち出しても弾かれ、棒術も簡単にあしらわれ、死んでないのが幸運なくらいだ。
「もう、寝る……」
そのまま風景に溶け込むように眠りについた。




