17.ニヤニヤ
「お帰りだにゃ、モンスターの呼び込みも順調にゃ!ありがとだにゃー」
無事ニャディーのダンジョンに帰宅すると、美味しそうな匂いを漂わせて、ご飯を作ってくれている最中だった。
「さて、ニャディー達にプレゼントだ。ご飯の後にみんなで食べよう」
デスナイト先輩から貰ったDPを使い、久しぶりのショートケーキを4つ召喚する。
「ニャ?!どうしたんだにゃ!」
突然のショートケーキに目が釘付けになりつつも、耳だけはこちらに向いていた。
「いやー、臨時収入があってね」
出来上がった夕食を囲み、これまでの経緯をニャディーに話す。エコレやクロも、ダンジョンの中で起こった出来事は知らないので、食べながら報告する。
「そ、そんなことがあったんですね」
「無事帰って来れて良かったにゃ。……やっぱりしょーごの強化は最優先だにゃ」
ニャディーの最後の方は聞き取れなかったが、なにか人体改造をされそうな、悪寒が背中を走った。
「それで、今度こそモンスターを垂れ流してるダンジョンに行こうと思うんだけど、どうかな?」
「ダメだにゃ」
夕飯を食べ終わり、幸せそうにケーキを頬張っているニャディーから、まさかの拒否が出る。
結構なんでもokしてくれるから、拒否られるとは思ってなかった。
「しょーごは、まだまだ自分が弱いって事を忘れちゃダメだにゃ。今回もたまたま上手くいったから良かったけど、一歩間違えればお陀仏だったにゃ。危ない場所に行くなら、それなりの実力がにゃいと」
ニャディーに言われてハッとする。改めて考えると、森でもエコレが強いモンスターを先に見つけて、回避しながら歩いてくれていたし、ダンジョン内でもクロやニャディーが着いてくれてたから、安全に歩けていた。
「って事でしょーごの強化だにゃ!ちょうどポイントも入ったことにゃし!」
いつの間にか手元には分厚いルールブックが召喚されており、スキルの項目を開いていた。
「今買えるのは基本属性の魔法か、初級のスキルだけだにゃー。しょーご的にはどれがいいかにゃ?」
「基本属性って水、火、土、風、だっけ?」
「そうだにゃ。魔法は生涯で1種類しか刻めにゃいから、よーく考えるにゃよ。しょーごは棒術くらいしかスキル無いから、スキルを取ってもいいかもにゃ」
最近ニャディーとのトレーニングで、棒の扱い方が上手くなったと思っていたが、どうやらスキルが芽生えていたらしい。
他のスキルもあれば、戦闘の幅は広がるだろう。しかし棒術も半端、新スキルも半端では、器用貧乏になって弱いままだろう。
それならば魔法の方がよさそうだ。なにより魔法使ってみたい。絶対に。
「なら、魔法を取りたいけど……どうしようかな」
生涯で1属性と言うのがネックなところだ。パッと利点が思い浮かぶのは高火力の火魔法だが、今居るのが洞窟の中なので酸素が心配だ。しかしお風呂の準備が楽になるし、使い方次第で酸欠も武器になる。
ほかの属性も短所もあれば長所もあり、短所も使い方では長所に変わる。選択肢が多いが故に、あれもこれも気になって決めきれない。
こんな時は消去法で決める事にしよう。
「……よし、決めた!」
散々迷った結果、自分会議で少しづつ選択肢を減らし、最終的に水属性に決めた。
「水魔法もいいと思うにゃ!じゃぁさっそく……」
決めたはいいが、どうやって魔法が使えるようになるのかと考えていたら、いつの間にかニャディーに背後を取られていた。
「まさか!」
「えぃ!」
ニャディーの小さい手が、背中に触れる感覚と同時に、電撃が走ったような激痛が流れた。
「いってぇぇぇ!!」
幸い痛みは一瞬だったが、居住スペースを転げ回るには十分な痛みだった。
「よし!これで使えるはずだにゃ!」
腕に刻まれた、転移のタトゥーと同じような痛みを背中で感じる。鏡がないので見れないが、感覚から入ってる事は間違いないだろう。
腕のタトゥーは、ワンポイントと思えなくはないが、背中のタトゥーはオシャレを通り越している気がする。
まぁ、この世界で生き残る為と、割り切ることにしよう
こっちでは感覚が違うかもしれないし、悩んでもタトゥーは消えないのだから。
「それで、なんで水魔法にしようと思ったんだにゃ?」
「それは……秘密にしようかな。次の稽古の時にわかるよ」
ニャディーと別れ、今だ余韻が残る痛みをさすりながら、魔法の練習に取り掛かる。
本当は今すぐにでも、垂れ流しになっているモンスターを止めに行きたいが、ニャディーに言われた通り、何か身を守れる術がないと、いざと言う時コロッと死んでしまう。
「せっかくならニャディーに、一泡吹かせようと思ったけど、上手くいくかな?」
様々な作品で"魔法はイメージだ"なんて言われるが、果たしてこの世界もどうなのだろうか……。
とりあえず、居住スペースの小屋の後ろで練習を行う事にする。
手を前に突き出して、何も無い場所を狙いながら。
「『水球』!」
少し大きめの声で放たれた詠唱は、なんの意味を持たず、ただ気恥しさだけを残して消えてった。
1回で成功するとは思っていなかったので、気を取り直し体の内側に意識を向けてみる。丹田を中心に深く息を吐いたり、吸ったりを繰り返すと、背中のタトゥーから妙な気を感じる。
(あ、多分これだ)
直感が告げるように気を意識しつつ、再び詠唱を行う。
突き出した手の平からバランスボール程の、大きめな水球が浮かび、発射される。
「おお!せいこぅ……」
魔法が発動した喜びも束の間。激しい頭痛と倦怠感に襲われ、その場にしゃがみこむ。
(何となくそんな気はしてたけど、キツイな……)
ニャディーに渡したDPの余りで、コーヒーを召喚し、休憩を取りつつ先程の反省と今後の練習の内容を考える。
思いつくままに練習をするのもいいが、todoリストでやる事をある程度まとめた方が効率がいいのだ。
体調が回復してきたら、気の量を少しにして魔法を使ってみたり、アレンジは出来るのかなど実験を繰り返す。先程の魔力切れらしき現象は味わいたくないので、休憩を多めに取りながら進めていった。
「よし、これくらいで良いだろ」
目の前にはビショビショになった葉っぱや、実験の犠牲になった葉っぱが散らばっている。
「あとは実戦してみてから考えるか」
分かったことは、気はやはり魔力と捉えていいだろう。さっきの倦怠感はいわゆる魔力切れで、1時間ほど地獄を見れば、歩けるまで回復した。半日はダルさが消えなかったが。
その間ニャディーはひたすらニヤニヤしていたので、絶対に一泡吹かせると、心に誓う事になったのは言うまでもない。
魔力が回復してからまた実験に取り掛かり、魔力の量によって水球の大きさが変わり、条件次第で回転させたり、性質を変えたりと、わりと自由にカスタマイズが出来た。
ただ、カスタマイズにも限界があるようで、温度なんかは暖かくはなるが、お風呂や武器として使えるほど温度が上がらず、今後の実験の課題となった。
ひとまず納得のいく形にはできたので、ニャディーに報告も兼ねて稽古の申し込みをしに行く。
ただ報告するだけでは面白みにかける。それに魔力切れの時に向けられた、ニヤケ面を思い出すとムカつくので、当初の目標通り一泡吹かせてやりたい。
そんな邪な心を胸に秘め、ニャディーの所へ向かった。




