16.ボス部屋
お互い武器を収め、椅子は無いので地面に腰を下ろした。
「それで、無駄が多いだの冒険者が来ないだの、どういうことじゃ?」
ひとまず停戦まで事を運べだが、まだ安心は出来ない。これで結果を出さなければ、そのまま戦闘に逆戻りだ。
「まず、この部屋の広さに意味ってありますか?」
勢いで無駄が多いと言ってはみたが、傍から見て無駄に見えても、その人にとっては譲れない場合もある。もちろんただ当たり前になっていて、無駄だと気づけてない事もあるが。
「?そりゃこれくらいないと戦うには狭いじゃろ」
改めて周りを見渡すが、グランド3面分もの広い空間だ。大型のレイドボスと戦うならわかるが、普通サイズの人型で、1パーティーくらいと戦うならそこまで広さは要らないだろう。
とはいえ、本人はこれくらい広さが欲しいと言うので、変更は出来ないだろう。後で提案はするが最終的に決めるのは本人なのだから。
「部屋についてはわかりました。もう一点、モンスターはどこですか?」
提案は最後にするとして、先に質問だけする。
さっき召喚されたオーガ以外、モンスターの姿は全く見当たらない。デスナイト先輩と戦っている時は、攻撃を受け流すのに必死で気にとめていなかったが、召喚されたオーガはコチラを攻撃する素振りも見せず、ただ静かに佇んでいる。
「モンスターはおらんぞ。守ってもらうなど恥もいい所じゃ!このオーガも勢いで召喚してしまったが、どうしたもんかのう」
人それぞれ価値観があるのだと、改めて思う。
モンスターが居てくれた方が、やってきた冒険者の戦闘スタイルを見れるし、回復アイテムなどの消費、疲労の蓄積など、メリットが多いように思える。しかし守ってもらうと言うのは、その人の力が足りないと捉えるのも理解は出来る。共感はできないが。
「なるほど……」
どうしたものか……。無駄が多いと言ったが、自分が無駄だと思っているだけで、本人にとっては必要な事だったようだ。
役に立つと啖呵を切った手前、すみませんやっぱり改善する場所ないです。は多分キレられる。なんなら文字通り切られてしまう。何とか問題を見つけなければ話にならない。
問題とは簡単に言えば悩みの種だ。本人に聞くのが1番いいが、役に立ちます!悩みはなんですか?はちょっと仕事が出来なさそうに見られてしまう。そんな人に初対面の人が仕事を任せたいとは思わない。
デスナイト先輩のつぶやきから戦闘狂気質なのはわかった。それに改めて周りを見ると、装飾品などはなく、ただ戦うためだけにある部屋。
守られるのは恥だとモンスターを全く置かないスタンス。
それらを見るに、自分自身で戦いたく、また戦い以外そこまで興味が無いのが汲み取れる。
それに、相手をした時の感覚から弱い者いじめより、強者との戦いが好きなようだ。そうでなければすぐにトドメを刺そうとせず、まずいたぶってから殺そうとするはずだ。
そう考えれば自ずと方針が決まってくる。
弱い冒険者より、強い冒険者を呼び込む方が良さそうだ。
ここまで考えたが、間違っていたら元も子も無いので、探りを入れながら確認していく。
「強い冒険者を呼び込もうと思いますが、他に要望はありますか?」
「呼び込もうと思って呼び込めれば苦労はしないわ。まぁ戦いが出来ればそれで良い。骨のあるやつなら尚更いいがな」
自分でも色々手を打っていたのか、少し嫌味を言われてしまう。まぁ強い冒険者を呼び込む方向性は、合っていたようだ。
先輩がどんな呼び込みをしたのか知らないが、冒険者を呼び込む方法はわりとある、例えばドロップがいいモンスター。希少な植物。宝箱などが主にあり、中には伝説など未知の探索や、武名を上げようと強い敵と戦う者も居る。
当たり前だが、冒険者にメリットがなければ基本ダンジョンには来ない。
モンスターは置きたく無いみたいだし、ボスしか居ない部屋で呑気に採取なんかはできない。残ってくるとしたら宝箱だ。ただ、宝箱の中に何をいれようか。
自分が高ランクの冒険者だとなりきって考えてみる。金銀財宝も嬉しいかもしれないが、他のクエストで稼げるならわざわざ危険を犯す必要もない。
他に何が欲しいか自問自答する。高性能の武器や回復薬。レア度の高いアイテムだろう。あとはそれをどう冒険者に伝えるかだ。倒したらレアアイテムがドロップすると言っても、それを周知してもらわなければ意味が無い。
それにボス部屋に宝箱があっても、呑気に開けてられないので、そこの所も考えなければならない。
◆◆◆◆
「よし、これで最初は弱い冒険者かもしれないですけど、そのうち強い冒険者が来ると思います」
その後も細かく話し合い、実際にダンジョンを改変する。
DPパワーで工事の必要もなく、あっという間にダンジョンが変わっていく様は、天変地異を見ているようだった。
とはいえ、やった事はそこまで難しいことではない。
入ってすぐに戦う部屋ではなく、通路を作りその側面に宝物庫を設けた。宝物庫の扉は1部分だけ透明にし、少しだけ中を見れるようにすることで、珍しいアイテムを確認できるようにした。
当然、破壊行動や鍵の解除を試みる冒険者は多いと思うから、物理的にも魔法的にもガッチガチに守ってある。
「これで最初の冒険者を逃がせば、情報が流れて次の冒険者が来ると思います」
「ふむ、せっかくの冒険者を逃がすのは癪だが、強い冒険者が来るためと思えばしょうがない。せっかくやってもらったこの景色でも眺めて、待つとしよう」
そして視界に広がるのは、薄暗いく生気を感じない森だ。
森と言っても木々は少なく、荒れた墓石がデスナイト先輩の姿をより際立たせている。
飾り気のない地下空間の見た目を変え、以前やっていたゲームの背景に似せて作ったが、お気に召したようで何よりだ。
ただの模様替えとはいえ、気分が上がると言うのは戦闘においてもバカにはできない。
勝負曲、勝負メシがあるように、勝負時にテンションを上げるのは理にかなっている。それに少しでも雰囲気で敵が気圧されれば、儲けものだ。
「なかなか良い仕事をしてくれたわぃ。ほれ、これは余った分だがお礼として受け取るのじゃ」
いつの間にか握られていた手から、暖かいような肝が冷えるような不思議な感覚が流れ込んでる。
まさかと思い、視界の端を意識すると10kの文字が見える。
「10kってことは……1万?!」
それだけあればCランクのオーガも呼べるし、Dランクのオークも10体は呼べる。思ってもなかった収入に、口元が綻びそうになるのを根性で持ち直す。
「喜んでくれたようなら良かったわい」
慣れないポーカーフェイスは、一瞬で見抜かれてしまった。咳払いで誤魔化して、最後に忘れていた当初の目的をお願いする。
「これで冒険者が来ると思うので、モンスターを外に出して冒険者を呼び込むのをやめて頂きたいのですが……」
「ん?ワシはそんな事せんぞ。そんな回りくどいやり方をするのは、西のヘビじゃろ」
どうやら、モンスターをたれ流しにしているダンジョンは、他にいるらしい。
最初の目的であった、モンスターの発生を止めるのはできなかったが、臨時収入が手に入ったので、ひとまずニャディーのダンジョンに戻ることにした。
「よ、良かった……」
「グァウ!」
視界の端に映る10kの文字に、ニマニマしながら外に出ると、ちょうどダンジョンに入ろうとしていたエコレと、増援に来てくれたのか、クロの姿があった。
あ、ダンジョンの改変に夢中になり、すっかりエコレの事を忘れていた。
「心配かけたね。エコレにクロもありがとう、少し手助けをしたらDPも貰えたし、今日のところは帰ろっか!」
忘れてた事を悟られないように、さっさとニャディーのダンジョンに向かい出す。
「……まさか、私の事忘れてた訳じゃないですよね」
ジト目で見てくるエコレに対し、女の勘は凄まじいと戦慄し、目を合わせないよう振り返らず森を歩き出した。
「……そっち違いますよ」




