15.隣人トラブル
前回の武器を棒から槍に変更しました。
今日も今日とて外にモンスター狩りという名の、追い込み漁をしに来た。相変わらず、あまり探さなくてもモンスターとエンカウントしている。
「や、やっぱり、この辺モンスターが多いですね」
「そうなの?俺にはこれが普通だと思ってたよ」
多いと言っても、戦ってる最中に新しい敵が来ることは無く、探さないと次のモンスターに出会えないほどではあるが。
「だ、ダンジョンの中はモンスターが多いですからね。
普通多くても、1時間に1回くらいしかモンスターに会いませんよ。それにこれほど多いと、近くに大きめのゴブリン集落があるはずなのに、一向に見つからないのもおかしいです」
「そう言われると、モンスターの住処らしき場所は見てないな」
今まで結構なゴブリンを追いやって来たが、集落はおろか生活感がありそうな寝床も見つけられずにいた。
「そ、そもそも私たちがここに来たのは、最近森の様子がおかしいから、その調査に来たんですよ。しょーごさんのダンジョンが原因じゃないと、もしかしたら他にダンジョンがあるかもしれませんね」
確かに、ダンジョンがどれくらいの間隔で存在してるか分からないが、周りに全くないとは限らない。
「んー、モンスターと会う確率が高い方に行けば、そのうちダンジョンを見つけられるかな」
「ちょ、ちょっと怖いですけど、そうしましょう。もしダンジョンがあるとしたら、ダンジョンブレイクの前かもしれないですし」
それから特に代わり映えもなく、黙々とモンスターをニャディーのダンジョン方面へ追い込む。さすがに毎回ダンジョンの中まで追い込んでいるとキリがないので、ほかの目的ができた今、大雑把に方角だけ決めてモンスターを追い込む。
そこから先、無事ダンジョンの中に入ってくれるかは神頼みだ。
「絶対これだよな」
「ぜ、絶対これですね」
ニャディーのダンジョンから直線で1時間ほどの距離に、石で枠取りされた門があった。
門に扉は無く、代わりに薄暗い渦が門の中にある。
「ダンジョンって1度入ると出れないとかある?」
「い、いえ。聞いた事ないですね」
「よし、それなら少しだけ入ってみるか。1階だけなら危険は少ないはずだし、すぐ戻れるだろう。ほかのダンジョンも見てみたいしさ」
それにモンスターが多いと、エコレ達のように調査などで森に来る冒険者が多くなる。そうなれば必然的にニャディーのダンジョンに来る確率も高くなるだろう。今はまだ調査段階だが、そのうち高レベルの冒険者が来るかもしれないので、早めに手を打っておきたい。
渦をくぐり抜けると、全面石で囲われた地下に繋がっていた。グランド3面は入りそうなほど広い地下空間には、松明が等間隔で壁に立て掛けてあり、高い天井からも光が照らされていて、視界には困らなかった。
「――――――――!」
遠くのギリギリ見える位置から、人型のような物が声を発している。しかし変に反響しており上手く聞き取れない。
目をこらすと、こちらに走って来ているのが分かる。全身甲冑姿に、見るからに怪しいオーラを身にまとい、片手に握られた大剣は重さを感じさせない勢いで、ブンブンと振り回されている。
「ハハハ!よく来たな冒険者よ!いざ、尋常に勝負せよ!」
まだ距離はあるものの、すごい速さでこちらに向かってくる姿に、本能が逃げろと警告してくる。
「や、ヤバいやつだ!逃げよう!」
ダンジョンに来てそうそうに踵を返し、入る時と同じように渦巻いている場所へ駆け込む。
次の瞬間、さっきまで居た森へ戻ってきた。
「こ、こわかったぁー」
いまだに早く脈打つ心臓を、深呼吸で落ち着かせる。
大剣を持つ甲冑のモンスターが迫る姿は、なかなか心臓に悪い。少し漏らしそうになったのを我慢できた自分を褒めてやりたい。
しかしここで怖いからと言って帰ってしまえば、何も問題が解決しない。
「はぁ、怖いけどもう1回行くか……」
「え?!あ、危なくないですか?!」
確かに危ないが、せめてモンスターを垂れ流しにするのをやめてもらわなければ、冒険者が増えさらに危険な状態になるだろう。
「戦いに行くわけじゃないし、危なそうならすぐ引き返せるから大丈夫だよ。それに放置するとモンスターも増えるし、森に来る冒険者増えるから、隣人としてそれだけでも辞めてもらわないと」
半ば自分にそう言い聞かせるように、エコレに説明する。
それに少し振り返ってみると、甲冑のモンスターも話しかけていたので、会話が成り立つ可能性も高いと思いたい。
様々な理由で自分を奮い立たせ、重たい足取りで再び渦に向かっていく。
「ごめんくださーい。別のダンジョンから来たモノですが、お話させて下さーい!」
少しでも敵対する確率を下げるため、冒険者ではなくダンジョン側の人間だと言い、仲間意識を少しでも持ってもらう作戦だ。
「――――!」
わざわざ最初の地位まで戻ったのか、またギリギリ見えるほど遠くから何かを喋ってこちらに向かっている。
「近くのダンジョンから来ました!!お話しできれば幸いです!!」
声のボリュームを上げ再び挨拶するが、聞こえていないのか勢いを落とす様子はなく、こちらに迫ってくる。
「人型で喋ってたから、会話できると思ったんだけどね。これ以上は危ないから今度こそ帰ろうか」
対話を諦め、エコレと再び戻ろうとする。
「――!逃がすかぁー!召喚」
後ろからの声で渦の前に光が集まる。見覚えのある光に咄嗟にエコレを押し飛ばし、ダンジョンの渦に吸い込まれ姿が見えなくなる。次の瞬間光が形を作りだし、はちきれんばかりの筋肉をしたオーガが現れた。
「ほぅ、咄嗟に仲間を逃したか」
すぐ側で聞こえて来る声に振り返ると、まだ距離があったはずの禍々しいオーラを纏った甲冑が目の前に立っていた。
「その心意気やヨシ!いざ勝負」
「ちょ、話をするために――」
言い終わる前に大剣が振るわれる。
目で追えなかったが、たまたま反射的に槍で防御した場所に大剣が当たる。しかし重い攻撃に耐えられず槍は吹き飛ばされ、手には鉄を叩きつけたような痺れだけが残った。
(運良く防御できたけど、武器も吹き飛ばされたし、もう防御はできない。そもそも戦っても絶対勝てないし、帰りの渦の前にはムキムキのオーガが守ってる。何とか生き残る方法……)
「ふむ、久しぶりの冒険者だと期待したが、随分弱かったの。もっと骨のある奴と戦いたかったが仕方なし、さらばだ冒険者」
再び構えられた大剣がブレる。
「あんた後悔するぞ!」
いつの間にか振られていた大剣が首元で止まった。
「……どういう事じゃ?」
よくWouTubeのサムネで見られる、不安を煽って動画を見てもらうテクニックが功を奏した。
「まず、無駄が多い!それにこのダンジョンの造りじゃ冒険者は来ない!」
せっかく相手が耳を傾けたチャンスを逃しはしない。
どっかの本で読んだ、話を聞いて貰うテクニックを必死に思い出す。問題点だけを簡潔に述べて、どうすればいいかはまだ言わない。それに最後の言葉から強い冒険者と戦いたい要望が見え隠れした。
「私なら!もっと要望にあったダンジョンに変えられます!」
もうここまで来たら勢いで押し通すしかない。
下手に日本人特有の謙遜をしても、自信がないと見られてそのまま大剣の錆にされてしまう。
「それに私は冒険者じゃなく、近くのダンジョンからやって来た小林 翔護と申します」
「お、おぉワシはただのデスナイトじゃ。半年前頃からこのダンジョンのマスターを務めておる」
首元にあった大剣を下ろし、自己紹介をしてくれる甲冑のモンスター。もといデスナイト先輩
自分がこの世界に来たのが1ヶ月前頃なので呼び捨てよりか、先輩呼びの方がいいだろう。
少し遠回りをしたものの、無事話し合いの場まで持って行くことができた。




