14.初めての外
ダンジョンを出ると、青臭い匂いが鼻を刺す。
ヒンヤリと湿った空気は肌寒く、視界には太い木がどっしりと根を下ろし、等間隔で生えていた。草の背丈は低く、歩くのにはそこまで苦じゃなさそうだ。
振り返ると切り立った崖が見上げるほどの石壁となり、ダンジョンの入口が亀裂の様にぽっかりと口を開いている。
「とりあえず、弱いモンスターをダンジョンに追い込もうか。上手く住み着いてくれればそれでよし。ダメでも中で倒せば少しはDPになるでしょう」
方針も決まり、まずゴブリンを探しに適当に歩いてみる。
ある程度進む度に印を付ける。素人が森の中で迷わないようにするためだ。
「しょ、しょーごさん。もしかして森初めてですか?」
「え?まぁ初めてだけど。どして?」
「あ、歩き方とか色々不慣れな感じがして……。もし良ければ私、斥候をやりましょうか?」
エコレは冒険者になる前に、狩人をやっていたらしく、森の歩き方や動物の足跡の探し方など、心得があるようだ。
下手に素人が手を出すより、プロに任せて大人しくエコレの後ろをついて行く。
「こ、この先、ゴブリンの集団が居るみたいです。数は多くないですけど、どうします?」
あまり探し歩くことも無く、数匹のゴブリンの群れを見つけた。見たところホブゴブリンも居らず、倒す分には困らなそうだ。
「ゴブリンならある程度攻撃すれば逃げるから、それでダンジョンまで追い込もう。それと少し試したい事があるから、待っててもらえる?」
エコレに少しだけ待っててもらい、イヤホンのようなものを耳にはめる。ゴブリンの反乱があった時に使った、モンスターの言葉がわかるようになる魔道具だ。いきなり力でダンジョンに誘導するのではなく、ダメ元でとりあえず話しかけてみる。
「やぁ、ゴブリン達。うちのダンジョンに来てみない?」
「ナンダコイツ!死ネ!死ネ!」
「ウシロ、オンナイル!犯セ!犯セ!」
言葉が通じても会話はできないようで、すぐこちらに襲いかかってくる。
ため息を吐きつつ当初の予定通り、ニャディーからもらった槍の柄で殺さないように適当にあしらってダンジョンの方へ誘導する。
「ギャァァァア!ウデオレタ!」
「イタイ!イタイ!」
軽くいなすだけでも大袈裟に痛がり、相手の苦痛が魔道具越しに翻訳される。
「……これがニャディーがおすすめしなかった理由か……」
そっと魔道具を耳から取り、心を鬼にして引き続きゴブリンをダンジョンへ追いやる。
それから次のモンスターを探しに歩くと、エコレがすぐに見つけてくれた。ゴブリンやホブゴブリン。大きなトンボのモンスターとなど、森に住む弱いモンスターを狙って追いやる。
強いモンスターも森の中にいるらしいが、エコレの活躍により先に発見し回避できていた。
「いやー、大量ですなぁー!」
木々の隙間から見える太陽が、お昼頃だと教えてくれる。
その間に多くのゴブリンを槍の柄で追いやり、虫系のモンスターは一応持って来ていた虫除けでらダンジョンに追い込んだ。
これでモンスターが住み着いてくれれば、DPのサイクルも早く黒字化するであろう。
「よし!初日はこれくらにいして、一旦戻ろうか。初めての事で慣れてないから、余裕があるうちに帰ろう!」
安全マージンをしっかり取りつつ、結構な数のモンスターをダンジョンに追いやり、手応えを感じたところで、自分達も戻っていく。
最初のゴブリンで試して分かった事だが、追いやったモンスターは、ダンジョンの中が心地良いのか、滅多に逃げ出す事はなかった。
それにダンジョンの入口付近が、モンスターで溢れているこも無かった。どうやら最初の頃に撒いていたキノコにつられて、奥へ奥へとゴブリン達が進んで行き、虫系のモンスターもゴブリンを襲いに、つられて奥へ進んでいったようだ。
「……どうやってニャディーの所に戻ろう……」
無事ダンジョンの中に、追い込むとこまでは良かったが、帰る手段を考えるのを忘れていた。
「お、同じダンジョンの仲間同士、襲われないとかはないんですか?」
「無いね。バリバリ襲われる。まぁそうじゃなきゃ、食料問題もあるし、DPのサイクルとか回らないからね」
普通にダンジョンを降りていくにしても、さっき追い込んだモンスターに合ってしまい、増える前に倒しても、せっかく追い込んだ意味が薄れてしまう。
それに途中まではいいとして、中盤から出てくるコモドランにはいい思い出がない。新しく召喚したオークに至ってはまず勝てないだろう。逃げ切れるかも怪しいので危ない賭けになってしまう。
「グォ!」
どうやって帰ろうか考えあぐねていると、奥の方からクロが歩いて来るのが見えた。
「迎えに来てくれたのか!ありがとな!そういえば、これを使えばクロの声も聞けるのかな」
ゴブリンの時に使った翻訳装置を耳に入れ、クロの方を向いてみる。
「カーッ!ゴブリン共が多かったのは、テメォのせいってわけか!手間がかかるあんちゃんだ!さっさと行くぞワレェ」
……オモッテタノトチガウ。
こんなデフォルメがかかった可愛い熊なのに、一昔前のヤンキー口調なのか。世の中知らない方が幸せな事もあると、再認識して翻訳装置をそっと封印した。
その後クロが護衛を務めてくれたおかげで、無事居住スペースまで戻ることが出来た。
道中固まってたモンスターは、クロの威圧スキルで蹴散らしたようで、倒すこと無く通れた。
日課になったお風呂で汗を流し終え、さっぱりしたところで皆と夕食を食べる。特に決めた訳では無いが、自然と今日の報告や雑談をする場になっており、つつがなく話していると、ふとニャディーが思い出したように呟く。
「そうだ、しょーご。手を出して欲しいにゃ」
ニャディーに言われるがまま右手を差し出す。小さいニャディーの手が触れ、握手をされたかと思うと、いきなり電流を流されたような、鋭い痛みが腕を襲う。
「いってぇ!」
反射的にニャディーの手を振り払うと、自分の腕に見覚えのないタトゥーが彫られていた。
「え、なにこれ?」
「それは転移のタトゥーだにゃ!条件を絞りに絞ってやっと手が届くDPになったにゃ」
転移系はやはりと言うべきか、とんでもなく高いらしく、1日1回。転移場所固定。触れてる人限定。ニャディーのダンジョン限定など、数々の制限をかけて少しでも値段を安くしたようだ。
「あ、ありがとう。それにしても、よくDPがあったね。もう借金もできないのに」
「末鬼が捉えた冒険者を、倒させて貰ったんだにゃ。スキルを持ってる冒険者を倒すと、DPがいっぱい手に入るにゃ。今からでも冒険者を誘い込んだ方がいいにゃ!」
余程入ったのか、フンスフンスと鼻息を荒立て興奮気味に伝えてくる。前に冒険者は止めとこう、と危険性やら話し合っていたのだが、欲に目が眩んでいるようだ。しかし、ニャディーがそこまで言うのだから、危険を犯してでも冒険者を呼び込んだ方がいいかもしれない。
「じょ、じょーだんだにゃ。冒険者の中には、にゃーよりも強いヤツが居るってわかってるにゃ」
少し悩んでいた沈黙を、変に解釈したニャディーがたどたどしくなる。
「エコレ、この近くの冒険者ってどのくらい強いんだ?」
「え、えっと詳しくは分からないですけど、Bランクのパーティーは居たと思います」
「ならとりあえずBランクを、軽くあしらえるぐらい強くならないとだな」
Bランクがどこまで強いか分からないが、オークやクロですらDランクなのだから、まだまだ先は長そうだ。
1日の生産DP : 150
1日の維持費用DP : 170
残り : 約130DP




