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<第6話 助けたあのコは言葉が通じない>

(うう、聞かれちゃったよ……しかもドン引きされてるし)


 ソリルと名前を教えてくれた美女には聞かれたくなかった。

 猛烈に腹が減ってたせいで、人生でも一番でかいんじゃないかという腹の虫が鳴いた。

 なんか知らないけど殺されそうになってるってのに、僕の体はとりあえず何か食いたいという欲求に忠実だった。さすがニートの体だけはある。


『いえ、今回のこの空腹は能力の使いすぎによる栄養不足が原因です』

(どういうこと?)

『ドラウプニル干渉端末のエネルギーシステムは複雑かつ多用なのですが、今回でいえばあなたの体内に蓄えられていたグルコース。つまり生体エネルギー源を多く使いました』

(つまり……あの岩をぶん投げた能力って僕の体を食って動いてるってコト!?)

『そうとも言えます。ですが安心してください。食事を採れば補充可能です』


 食事っていっても、この状況で?

 なんか向こうにいるおじいさんが声掛けたら、二人とも毒気が抜かれたみたいに大人しくなったけど。

 すると、あの美人な戦士のお姉さん――ソリルが少し心配そうにこちらを見つめて何か言う。


「タオウロソゥバィナ?」


 腹が減ってるのか、と聞いてきたのかな。雰囲気から察するしかないけど。

 僕はこくこくと頷く。

 それを見た彼女はナイフを手にしている、少年なのか少女なのか分かんない子に何か指示する感じで話しかけた。

 おかっぱ髪の子供は、どうも不服だったらしくなにやら言い返すが、ソリルに説き伏せられて不承不承、従った。


 ブツリ


 おかっぱ髪の子は僕を縛っていた縄を、あのナイフで切ってくれた。

 下手すりゃ首切られてたかもしれないナイフで自由になる。

 あの子は、ふん、と言ってそれを鞘に収めた。

 とりあえず、なんかヤバイ雰囲気は去ったのかな。

 縛られて痛かった手首をさすっていると、ソリルが焚火の近くへ手招きしている。

 お呼ばれして近寄ると、冷えていた体に焚火があったかい。

 ほっとした気分になると、彼女が革製の袋を持ってやってくる。


「ン」


 ――と差し出されたのは、なんだか黒くて細長い板状の物体。

 形と色だけならなんだかエナジーバーみたいだけど、もっと肉とか脂とかそういう匂いが強めだった。


「な、なにこれ……?」

『成分分析してみましょう。毒物だといけませんし、食糧ならそこから彼らのことを理解する情報が得られます。端末をかざしてみてください』

「こ、こうか?」


 片手の端末をエナジーバーみたいなものの前に出した。

 次の瞬間、青白い光の帯が端末の宝石の中から照射され、エナジーバーみたいなものを舐めるようにする。

 いわゆる、スキャンしているような感じだった。


「アオっ!?」


 見守っていた三人が目を丸くする。

 実を言うと僕もそうだったんだけど、アシュラの声は聞こえない三人は特にびっくりしたようだ。


「あはは……ごめんごめん、変な意味はないよ」


 僕は敵意や悪意がないことを必死でアピールする。

 そのへらへら笑いに、ソリルは槍を握る手を緩め、おかっぱ髪の子はナイフから手を放した。おじいちゃんはなんか、ほっほっほと興味深そうに眺めている。

 そうしていると、視界内にスキャン結果が表示された。


『砕いた食材をラード状にした獣脂によって固めた固形食のようですね。内容物は、鹿に成分の似た動物の干し肉・クルミに類する木の実・ベリー系のドライフルーツに類似しています。カロリーはこれ一本で1000キロカロリーはあるでしょう』

「すげー、本当にエナジーバーじゃん」


 腹持ちもよさげだ。


『エナジーバーの先祖と言っていいかもしれません。山岳部族で伝統的に作られる〝ペミカン〟と呼ばれる長期保存食に似ています。おそらくこの世界での製法もそれほど変わらないでしょう』

「へーえ。結構ちゃんとした料理なんだな」

『念のため肉の腐敗時に発生する化学物質を検出する鮮度測定も併せて行いましたが、食中毒になりかねない危険な物質は認められませんでした』

「そんな機能まであるんだ……」


 そこまで言われれば安心だ。いただきましょう。とにかく腹が減ってるし。

 ぱく、と一口いってみる。


「……!」


 口の中に、濃厚な肉の匂いとベリーの甘い香りが広がった。食感はクルミの実の潰れるポリポリした感じが楽しい。

 噛めば噛むほど肉の旨味と共に脂が出てくるのだけど、ベリーなどのドライフルーツが合間に入ってしつこくない。


「美味しい! なにこれ美味しいじゃん!」


 空腹も手伝って思わず声を上げてしまった。


「オイシー?」


 ソリルが首を傾げる。


「そう美味しい! ありがとう!」

「アリガトー?」

「うん、ありがとう……って言っても通じないんだよな。とほほ」


 言葉が通じないと、感謝もきちんと伝わらない。

 まあ、言葉が通じてもコミュ障のニートじゃ結局伝わらないかもだけど。


「フン……」


 おかっぱのあの子はなんだかソリルと会話してる僕が面白くなさそうだ。


(なんか嫌われてるなあ、あの子には……)

『推測ですが、このペミカンは彼らにとってもかなりの貴重品ではないかと思われます。あなたに食べさせることにあの子は抵抗があったのではないでしょうか』

(う……そういえばタダで食べちゃってるんだよな、これ)


 お金を払おうにも財布はないし、あったとしても日本円なんて紙切れだよな。

 まさか異世界に来てまで他人に食うものを依存するニート生活が続くとは。

 そんな申し訳なさを感じて肩身の狭い思いで縮こまる。

 それを見たソリルが、ばさっと今度は何かを放ってきた。


「毛皮……」


 それも立派な鹿みたいな動物の一枚毛皮だ。とっても温かそうだった。

 ソリルは自分のものなのか、銀色のトナカイみたいな毛皮を羽織ると、ころんとその場に横になる。

 そしておかっぱ髪の子と老人と少し話すと、そっと目を閉じて眠りについた。

 おかっぱ髪の子がこちらをじろりと見て、何か言う。


(意味は分からないけど、なんか嫌味ったらしいことを言ってそう)


 それから、その子もこてんと丸まって眠った。

 老人だけが起きているのは、火の番と不寝番だろうか。

 彼は僕を無言で見ると、静かに頷いて見せる。

 もういいから寝なさい、とかそんな意味っぽかった。


「お、おやすみ、ソリル」


 僕は慣れないながら毛皮の毛布にくるまると、最後にソリルに挨拶した。


「ふっ……アリガトー」


 異世界の初めての夜は、焚火の温かさと毛皮の温かさ、それとソリルの善意の温かさがなんだか印象に残る夜になった。

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