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1.魔王討伐隊

 団長が赤い羽根を受け取ってから3日が経った。


 すでに、魔王復活の話は一般の人々にまで広まっていて、ようやく団員達は赤い羽根の意味するところを知った。


 団長自身、表面上は何事もないように振る舞ってはいるが、ぴりぴりとした空気が彼の周りを包んでいるのは、誰の目にも明らかだった。


「よし、今日の演習はここまで。・・・それから、タスク、ミオン」


 団長に呼ばれ、2人が走り寄る。


「これから、王宮に行く。付いて来い」


 何事かと他の団員がざわめく中、タスクとミオンは団長の後に付いて行く。


「あの・・・」


「質問は後だ。とりあえず、王宮へ急ぐぞ」


 タスクの言葉を遮ってそう言うと、団長は早足で王宮へ向かう。


 タスク達は、最初は置いて行かれないように必死で歩いてはいたものの、段々小走りになって、しまいには全力で走らないと付いていけなくなる。足の長さの違いだろうか、とタスクは思う。


「だ、団長・・・待って」


「早すぎるよね、団長」


 息が切れるタスクに対し、ミオンはまだまだ余裕の表情でそう呟く。


「・・・俺・・・自信なくなってきた・・・」


 ミオンに聞かれないように、タスクはこっそりと溜息をついた。



***



 タスク達が王宮へ着くと、すでに扉の前では団長が門番と話していて、開門の準備に取りかかっていた。


 国王が王宮内にいる時でも、常に門は閉じられている。賊の侵入を防ぐ為と、国王自身があまり人と会いたがらない為だ。


 王妃が存命の頃はまだ外向的な面も持っていた国王だったが、王妃が亡くなってからというもの、急に内向的になり、臣下でさえ会うことが難しくなってしまった。


「開門!」


 門番が叫ぶと、門がゆっくりと開いていく。


「陛下にお会いする前に、殿下達にご挨拶に行くぞ」


「あ、はい」


 呆然とその光景を見ていたタスクは、団長に話しかけられて現実に引き戻される。


 王族に会うなんて、入団の時以来だと思う。とは言っても、タスクは半年前に魔導騎士学校を卒業したばかりであり、1ヶ月間の研修を経て晴れて入団となったので、他の団員よりも確率としては高い方だ。


「ミオンは殿下達には、たくさん会ってるんだよね?」


 ミオンに尋ねる。


 最年少で魔導騎士団に入団したミオンは、すでにタスクの知らない何らかの功績を挙げていて、魔導騎士団のなかでも一目置かれる存在だ。


 時々ではあるが、王族の剣術指南も団長の代理としてこなしている、らしい。


「うん。王女殿下は年齢よりもしっかりしていらっしゃるし、王子殿下はとっても元気な方よ」


「・・・そっか」


 余計に緊張が高まり、王族への畏怖で身体が硬直しそうになる。


「おいおい、しっかりしてくれよ、タスク。魔導騎士団員になった以上、王族にお会いすることはこれからも何度もあることなんだからな」


「は、はい」


「まぁ、今回の任務で死ななければね」


 さらりと恐ろしいことをミオンが呟く。それを耳にしたタスクは固まり、団長は絶句する。


「なぁんて、冗談です・・・ほら、待ちかねて殿下達が出迎えてくださっているわ」


 ミオンの視線を追うと、コノハ王女とユウ王子が後宮殿の入り口でにこにこと笑って立っている。


「お久しぶりです。殿下方」


 最初に団長が深々と頭を下げる。


「そう?そんなに会っていないかしら・・・。相変わらず生真面目ね、カーネヤスは」


 コロコロと笑い、コノハ王女はタスクに目を向ける。


「貴方、今年の魔導騎士学校主席卒業生?」


「は、はい。タスクと申します」


「ふふ。ミオンから聞いてるわ。彼女の恋人なんでしょう?」


 コノハ王女の一言にタスクが狼狽え、団長が咳き込む。


「・・・そ、そうだったのか!?」


「あら、カーネヤスは知らなかったのね。秘密だったの?ミオン」


「いいえ、言う機会がなかっただけです」


 悪びれずミオンが言うと、団長は溜息をつく。


「・・・まったく。お前達も人が悪い。こそこそと付き合ってないで、堂々としていればいいものを」


「あの・・・堂々と、いちゃついていました・・・」


 申し訳なさそうにタスクが言うと団長がギョッとする。


「ほとんどの団員は気付いていましたけど?」


 ミオンが更に付け加えると、団長は脱力してしまう。


「わ・・・私だけ・・・」


「カーネヤスは鈍感なんだな」


 にやっと笑いながらユウ王子が言うと、コノハ王女がそれをたしなめる。


「ユウ、ダメよ。そんな風に言ったら、カーネヤスが可哀想じゃない」


「だって姉上、カーネヤスは絶っっ対に、告白されるまで気付かない人だよ」


「でも、騎士としては素晴らしい功績を挙げているわ」


「騎士としてはね」


 しれっと言うと、ユウ王子は不躾にタスクを眺める。


「あ、あの・・・?」


「ふーん・・・顔は整ってるし、首席卒業って事は頭が良いだろうし、これからって感じはするけど、まずまず筋肉も付いてるみたいだし・・・。ミオンって男を見る目があるよね」


「ふふ、よく言われます。でも、彼の魅力はもっと別のところにあるんですよ」


 にこにことミオンが答えると、タスクはますます顔を赤らめてうつむいてしまう。


「まあ、本当に仲が良いのね。・・・さ、雑談はここまで。お父さまがお待ちです。こちらへどうぞ」


 コノハ王女は自然に話題を切りかえると、タスク達を促して謁見の間へと案内する。


 広々とした謁見の間は既に人払いがされていたらしく、玉座に国王が座っているのみで護衛などは全く立っていなかった。


 が、明らかにぴりぴりとした空気が部屋全体に漂っている。


「ミオン、タスク、おまえ達を呼んだのは他でもない。魔王が復活したことは聞いているか?」


「はい、陛下」


 ミオンが答えると、タスクも頷く。


「ならば、話は早い。おまえ達に魔王討伐隊のトップに立ってもらう。人選は任せるが、少数精鋭で頼む」


 一瞬の間の後、タスクは、はい。と答えていた。


「かしこまりました、陛下」


 驚いたのは、国王達の方だった。あっさりと承諾されるとは思ってもいなかったようだ。


「・・・疑問はないのか?」


「魔王のことは、陛下も良くご存じではないでしょう?」


 笑みをうかべてミオンが聞き返す。


「そうだが。・・・なぜ、自分達なのか、とか・・・」


「・・・いえ、特には。そう命ぜられたなら、最善を尽くすだけです」


 タスクは真剣な顔つきでそう答えると、愕然とする国王に向けて首を傾げた。


「今すぐ出発した方がよろしければ、ただちに準備を始めますが?」


「うむ。事は急を要する。準備ができ次第、出発してくれ。・・・ああ、それから、これは、旅の費用だ」


 国王はサイドテーブルから革袋を取るとミオンを近くに呼び、その手に渡す。


「ありがとうございます。・・・冒険者ギルドにはもう連絡を?」


「うむ。昨日のうちに、カーネヤスに連絡をしてもらっておる」


 国王の返答に、ミオンが頷く。


「・・・わかった!ミオンがタスクを好きになった理由って、この度胸の良さと決断力でしょ!?」


 突然、その場にはそぐわない話題を、ユウ王子が蒸し返す。ずっと考えていたのだろう。


「こら、ユウ!今はそんな話をしているのではないのよ!」


 コノハ王女に諭されても、なお、ユウ王子はミオンに同意を求める。


「ね?当たったでしょ?」


「・・・ふふ。殿下には負けました。・・・大当たりです」


 ミオンは動じた様子も見せずに答えると、タスクを振り返る。


「私は、頼りがいのある男性が好きなんです」


「ミオン・・・」


  見つめ合う2人。見ている方が恥ずかしくなるような、熱愛ぶりだ。


「んんっ!・・・それでは本日付けで、魔王討伐隊に魔導騎士ミオン、タスク両名を任ずる」


 国王の咳払いで、我に返った2人は、形式通りに敬礼した。


「「は。かしこまりました」」


 そんな2人を、団長は憂い顔で眺めていた。

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