第7.5話 【エマ日和】
「わあ、アルファ君! 見てください、この剣飾り! 凄く細かく彫刻がされていて、とっても可愛いです!」
反則級の加護持ちとしての学院生の姿を隠し、あえて平凡な学院生として街に溶け込んでいる私とエマ。
今日という日は、明日が学院の休日ということで、私達だけの水入らずのデートだった。
大通りの賑やかな武具市に足を踏み入れると、普段は剣士として真剣な表情を見せるエマも、今日ばかりは年相応の少女のように目を輝かせている。
彼女は私の袖をぎゅっと掴んだまま、次々と並ぶ露店を巡っていった。
エマは本来、剣の刃の仕上がりや研ぎ具合、あるいは魔導鉱石の質を真剣に吟味するのが大好きな純粋な剣士だ。
しかし、ふと立ち寄った装飾品店で、私が小さな蒼い花の形をした髪飾りを手に取り、彼女の髪にそっとあてがうと、それまでの剣士としての顔は一瞬で吹き飛んでしまった。
「……えっ、これ、私に……? でも、私なんかがこんな綺麗なものを……」
「エマによく似合っているよ。今日の記念に買っていこう」
「アルファ君……っ」
私が代金を払い、彼女の綺麗な金の髪にそっと髪飾りを挿してやると、エマの頬は一気に熟したリンゴのように真っ赤に染まった。
髪飾りに埋め込まれた蒼い魔石よりも、彼女自身の大きな瞳が感涙でウルウルと揺れている。
「あ……ありがとうございます……っ。私……剣の腕を褒められるより、何倍も……胸がドキドキしています……」
それからは城下町の名物料理を食べ歩き、他愛もない会話を交わしながら時間を過ごした。
普段は天然でどこか抜けているエマだが、私と並んで歩く歩幅や、人混みで離れないようにしがみついてくる力加減には、彼女のまっすぐな愛おしさが詰まっていた。
道行く人々も、仲の睦まじい私たちの姿を見て、思わず微笑ましい視線を送っている。
太陽が徐々に傾き、街灯に明かりが灯り始める夕暮れ時。
私達は賑やかな大通りを抜け、宿泊予定の宿へと続く静かな路地裏へと差し掛かった。
夕方の上品な風が吹き抜け、エマの髪に挿した蒼い髪飾りがかすかに揺れる。
ふと立ち止まった彼女は、照れくさそうに指先でその髪飾りに触れながら、じっと自分の足元を見つめていた。
「アルファ君……。私、剣を振っている時は、自分の使命や強くなることばかり考えていました。でも、あなたと出会って……こうして手をつないで歩いていると、自分がただの『一人の女の子』なんだって、すごく実感するんです」
エマはゆっくりと顔を上げると、上目遣いに私の瞳を真っ直ぐ捉えた。
いつもなら無邪気な笑顔を浮かべる彼女の顔に、今まで見たこともないような艶やかさと、抑えきれない恋情が浮かんでいる。
「あの……私、今日はまだ、夢から覚めたくありません。宿に戻っても……ううん、お部屋に入ってからも、ずっと私を抱きしめていてくれますか……?」
天然で素直な彼女が魅せた、明確なお誘い。
その無防備で可憐な表情に胸を突かれた私は、彼女の華奢な腰を引き寄せ、その唇に優しく口づけを落とした。エマは小さく息を呑むと、身を委ねるように私の胸へと倒れ込んできた。
鍵をかけ、静まり返った部屋の中へ入ると、エマの緊張は最高潮に達していた。
「アルファ君……私、剣を振る時よりずっと胸がドキドキしています……っ」
ベッドの上で優しく押し倒すと、エマは照れくさそうに頬を染めながらも、迷うことなく素直にその細い腕を私の首に回してきた。
普段の天然で無邪気な様子からは想像もつかないほど、潤んだ瞳でじっと私の顔を見つめてくる。
その飾らない素直な表情と、重なり合う吐息の熱さに耐えかねて優しく重ねて唇を奪うと、彼女は小さく「んっ……」と甘い声を漏らし、うっとりと幸せそうに瞼を閉じた。
私の手が彼女の服の帯を解き、滑らかな肌へと伸びていく。
エマの身体が可愛らしく跳ね、熱い吐息が私達の間に満ちていった。
重なり合う体温と深まる熱気の中で、部屋の明かりがそっと落とされていく。
翌朝、やわらかな朝の光が部屋に差し込む中で目を覚ますと、エマがすっぽりと私の胸元に収まるように抱きついて眠っていた。
昨夜の余韻が残る乱れ髪を優しく撫で上げてやると、彼女はくずったそうに眉を寄せ、ゆっくりと寝ぼけ眼を開ける。
「ん……アルファ君、おはようございます……。まだ、離れたくないです……」
そう言ってふにゃりと甘い笑みを浮かべると、さらに腕の力を強めて胸に顔をうずめ、幸福感に満たされたまま二度寝の体勢に入ってしまう。
昨夜の熱情が嘘のように素朴で愛くるしい姿。だが、衣服の隙間から覗く白い肩には昨夜の私の痕跡が残っており、それが酷く艶やかだった。
「エマ、そろそろ起きないと」
私が囁きながら彼女の耳たぶを優しく噛むと
「ひゃいっ……!?」
とエマは可愛らしく体を跳ねさせた。
「も、もう……アルファ君意悪です……っ。そんなことされたら、私……朝からまた胸が苦しくなっちゃいます……」
真っ赤になって私を見上げてくる彼女の髪には、昨日贈った蒼い髪飾りが、朝日に照らされて綺麗に輝いていた。
私は彼女を再び強く抱き締め、愛おしさを込めてその甘い唇をもう一度塞いだのだった。




