第7話 【闇魔】
ラムダとミューに【好感度最高】を使用してから数日が経過した。
私はミューと二人きりになれる絶好のタイミングを伺っているのだが、なかなか思い通りにいかない。
というのも、彼女の傍らには常にあのラムダが引っ付いているからだ。
どうしたものかと一人頭を悩ませていたところ――
「私が呼んできましょうか?」
と、親身になったエマが提案してくれた。
だが、後々ラムダにバレた時の余計な揉め事を考えると面倒になりそうな気がしたため、丁寧にお断りしておいた。
しかし、それにしてもラムダに加護の効果が表れないのは一体なぜなのだろうか。
未だに原因が特定できないでいる。
魔人族には精神系の加護が効かない仕様なのか……それとも何か別の要因が存在するのか……。
あれこれ一人で悩み続けていても埒が明かない。
ここは男らしく腹を括り、玉砕覚悟で二人まとめて直接話を切り出してみることにした。
ある日の授業終了後――。
「ラムダ、ミュー、ちょっと時間をもらえるかい? 少し大事な話があるんだ。あと、僕の仲間も紹介したくてね」
「なによ、なんで私があなたのために時間を割かなきゃいけないのよ!」
予想通り、ラムダがいつもの刺々しい口調で突っかかってくる。
こりゃダメかもしれないなと諦めかけたその時だった。
「ラムダちゃん、そんなこと言わないで。私達もどうせ暇なんだからいいじゃない、フフっ」
ミューが絶妙な助け舟を出してくれたおかげで、無事に二人を校庭の閑静なベンチへと連れ出すことに成功した。
「はじめまして。剣術と体術を専攻しているエマといいます」
エマがにこやかに二人へ向けて挨拶を告げた。
「私はラムダ、こっちはミューよ、よろしくね。私達は魔術と錬金術を専攻しているの」
私に対する態度とは比べ物にならないほど丁寧で淑やかな挨拶を返すラムダ。
私はひとまずラムダとミューに対し、私とエマの出会いから【従者契約】を結ぶに至った経緯、そして私の持つ規格外な能力の真実を明かし、二人の反応を伺ってみた。
結果は、概ね私の予想通りのリアクションだった。
「はぁ……やっぱりそんなカラクリがあったわけね。おかしいと思ったのよ。授業で習う魔法を片っ端から即座に習得していくから、どれだけの規格外なのかと少し怖かったんだから。まあ、規格外であることには変わりないのだけど」
ラムダは呆れ半分といった様子だったものの、これまでの不自然な現象の数々に合点がいったようで素直に納得してくれた。
「私はアルファさんは本当に凄いなぁって尊敬していましたけど、想像以上に凄まじい人だったんですね!」
ミューはどこか羨ましそうに、うっとりとした羨望の眼差しを私に向けている。
「それでね、本題なんだけど……二人とも、僕と従者契約を結んでくれないかい?」
吉と出るか、それとも凶と出るか――。
二人は顔を見合わせ、しばし考え込んだ後にミューが口を開いた。
「私は喜んでお受けします! 私の実家は商会でして、上に兄様方や姉様方もいるので跡継ぎにはなれません。でも、将来的に商売へ携わった時に自分の身を守る術を身につけたくてこの学院に来たんです。だから、みんなで一緒に強く成長していけるなら、私の方からお願いしたい頼みです!」
なんと、ミューは最初から私と同じベクトルで将来を見据えていたのだ。
一方で、ラムダはどこか申し訳なさそうに視線を落とした。
「私は……従者契約は無理かな……。いくら家を追い出された身とはいえ、私の実家は魔族の貴族でしょ。他種族の貴族でもない人の従者になったなんて実家に知られたら……アルファの身に危険が及ぶわ……」
間違いない。
ラムダの言っていることは極めて筋の通った正論だ。
自分たちの身を守るための仲間作りが原因で、余計な巨大勢力を敵に回してしまっては完全な本末転倒である。
「だけど……従者契約はできなくても……アルファと一緒に……これからもずっと一緒に……いられるなら……従者じゃなくても……っ」
おや……? これはもしかして……。
困惑する私に対し、エマがそっと耳元で囁いてきた。
「アルファ君、ラムダさんは最初からアルファ君のことが好きだったんじゃないですか? 単に素直になれなかっただけだと思いますよ、フフ……」
そうか、そういうことだったのかと私は激しく膝を打った。
(そうか! だから【好感度最高】を発動させても、元々の好感度が上限突破していたから変化が見えなかったのか! なんて回りくどくて面倒くさい奴なんだ!)
とはいえ、頬を真っ赤にしてモジモジと俯くラムダの姿に、やはりとびきりの美女だと私の男心は激しく揺さぶられたのだった。
「よし。じゃあ従者契約はミューとだけ結ぶことにして、ラムダは大切な仲間として僕達の側でこれからも一緒にいてくれ」
「はいっ!」
「……ふん、しょうがないわね」
安堵の表情を浮かべる二人に、私はこれからの育成プランを提示した。
「あとね、ミューには風と光の他に土魔術の三属性を最上級まで覚えてもらいたい。ラムダには火・水・闇の魔術を最上級まで覚えてもらいたいんだ。特に回復を担う光と、空間を制する闇は重要だからよろしく頼むよ」
そこから四人で膝を突き合わせ、今後の活動方針について具体的に話し合った。
まず第一に、私の持つ加護の秘密については完全口外禁止とすること。これは絶対条件だ。
そして、これから個々の能力値や加護を付与して強化していくが、学院内では目立つ行動を一切控えること。これも極めて重要である。
下手に目立ってしまえば、思わぬところからスカウトが舞い込んだり、拒否権のない不毛な権力闘争の渦に巻き込まれかねないからだ。
さらに、二年生に進級した時点で解禁される「冒険者ギルドへの登録」を行い、正式なパーティーとして活動を開始することを取り決めた。
実戦経験の積載や能力・加護のスキルアップは、すべて学院外の任務で行っていく計画だ。
「アルファさんは学院を卒業したら、その後はこのパーティーでどうやって活動していくつもりなんですか?」
ミューが首をかしげて尋ねてきた。
「あ、それ、私も気になっていました!」
エマも深く頷いて同調する。
「ひとまず、僕達全員で暮らせる拠点のようなお屋敷を作って、冒険者稼業や商売を営みながら大陸全土を旅したり、元々やりたかった色々な物作りなんかも試してみたいと考えているよ。まあ、細かいところはこれからみんなで一緒に作っていこう」
「いいねー! 冒険者稼業か! なんだかワクワクしてきたよ!」
ラムダが目をキラキラと輝かせる。
「商売のノウハウなら私も力になれると思います!」
「私も色々な土地へ旅ができるなんて楽しみで仕方がありません!」
ミューもエマも非常に乗り気で、目を輝かせている。
ひとまず玉砕覚悟の打診だったのだが、最高の結果に落ち着いて胸を撫でおろした。
だが、守るべき大切な仲間が増えた以上、私に背負わされた責任もこれまで以上に重大だ。気を一層引き締めて前に進まねばならないと、心に強く誓うのだった。




