第4話 【赤髪】
新たな生活の始まりである。
朝、目を覚まして真っ先に自分の能力値を頭の中で確認してみた。
基本能力:
腕力144 魔力84 走力128 知力148 魅力140
十分すぎるほどの圧倒的な数値だ。
あまりに極端な跳ね上がり方に自重の意識が働き、しばらくはこの能力値を維持して過ごしてみることにした。
さて、次に着手すべきは、これからの学院生活における目標に向けた新たな加護の策定である。
一、自分自身の身を確実に守る能力
二、自分自身を守ってくれる頼もしい仲間達をつくる
三、できれば可愛い女の子達に囲まれた夢の生活を送る
四、何をするにも先立つもの(お金)が必要
現状、一つ目の保身については基礎スペックの上昇で一旦の目処が立った。
となれば、お次は二つ目の「仲間づくり」だ。
それも、守ってくれる仲間が可愛い女の子たちであれば、これほど最高なことはない。二と三の目標が一挙に同時達成できるのだ。
そして最終的には、集まった仲間たちの中から四のお金儲け――つまり商売上手な人材を見つけ出す。
もちろん、そこも可愛い女の子であれば何一つ文句はない。
無事に壮大な入学式も終わり、ランダムに振り分けられたクラスへ移動して朝礼を受ける。その後は各自が選択した授業の教室へ向かうシステムらしい。
特待生である私はあらゆる専攻の授業を自由に履修できるため、制限なく動き回れるのが強みだった。
だが、仲間を探すと言っても闇雲に声をかけていては効率が悪い。計画的に動く必要がある。
どんな状況や敵からでも身を守れる隙のない陣形を組むには、やはり剣士と魔術士をそれぞれバランスよく揃えたいところだ。
魔術士に関しては、火・水・風・土・光・闇の主要六属性を網羅するのが望ましい。
しかし、一般的に二属性持ちすら珍しく、三属性持ちとなれば超天才の域だ。足りない属性は私の【創造】で生み出し、さらに【創造】で【付与】という加護を作成して対象に与えれば解決するのではないか――。
他人から能力を複製できるのだから、逆に他人に能力を付与することも可能なはず。
それが私の推測だった。
とはいえ、まだ不確定な実験段階であるため、まずは前衛を張れる剣士の仲間探しから始めることにした。
クラスでの朝礼を終えた私は、さっそく剣術専攻の授業が行われる訓練場へと足を運んだ。
そこには見るからに「剣士」といった佇まいの男女が三十名ほど集まっており、互いを鋭く牽制し合うような独特の緊張感が漂っていた。
「新入生諸君、入学おめでとう! 私が剣術専攻を担当するカイスである! 一発目の授業でこの場を選んでくれたことを誇りに思うぞ!」
突然、黒髪角刈りの大男が大音量で挨拶を繰り出した。
「おい……あの人、帝国騎士団の前騎士団長だぞ……。」
周囲の生徒たちから、ひそひそと恐れおののく呟きが漏れ聞こえてくる。
(ヤバい……選択を間違えたかもしれない……。)
場違いな熱量に早くも後悔しかけたその時、ふと視界の隅に一人の少女が留まった。
身長は160センチほど。鮮やかな赤髪のロングヘアに、キリッとした凛々しい顔立ち。制服の上からでもはっきりと分かる、出るところは出て引き締まった抜群のスタイル――。
(……惚れた。)
惚れたのはいいが、さてどうアプローチしたものか。
私はひとまず、一週間のクールタイムを終えて使用可能になった【創造】で、かねてより温めていた加護を作成することにした。
加護:【好感度最高】
効果:対象からの自分に対する好感度を無条件で最高値にする
……新たな加護を作成し、対象に付与します……
思考の末に爆誕した反則級の加護を抱え、まずは【鑑定】で彼女の情報を読み取る。
名前:エマ(人間族)
年齢:14歳
職業:帝国高等学院学生
基本能力:
腕力70 魔力00 走力43 知力48 魅力85
特殊能力:
なし
加護:
なし
流石は自力で剣術専攻を選んだだけあって腕力は高い。魅力の数値も、その華やかな容姿に違わず群を抜いている。
加護は「なし」の表示だ。自らの実力だけで過酷な入学試験を突破してきた証だろう。
私はエマを対象に【好感度最高】を発動させ、自然体を装って背後から声をかけてみた。
「やあ、君はあの先生の噂を聞いたことあるかい?」
「剣士を目指す者なら誰でも知っています。雲の上の存在で、私たちの憧れの的なんですよ。」
エマはくるりとこちらへ振り返りながら朗らかに答えた。
「あ……あ、私はエマです。あなたは……?」
突如として頬をぽっと赤らめ、上目遣いでじっと私を見つめてくるエマ。
その恥ずかしそうな仕草から、好感度が限界まで跳ね上がったことが手に取るように伝わってきた。
「やあ、僕はアルファ。知り合いが誰もいなくて心細かったところなんだ。よろしくね。」
「あ……こちらこそ、よろしくお願いします……っ。」
容姿端麗な母エリスと幼少期から毎日顔を突き合わせて育ったおかげで、私は美人に対する耐性だけは完璧なのだった。
剣術専攻の初日授業は、木剣を使用した基本的な型と体捌きの訓練であっさりと終了した。
放課後、次の目的地へ移動しながらエマとお互いの自己紹介を交わす。
彼女は帝国の副首都アルベドの出身で、幼い頃に両親を亡くし、孤児院で育ったという過酷な境遇を明かしてくれた。
一般生として狭き門の試験に挑み、見事合格を勝ち取ったらしいのだが、もし落ちていれば帰りの旅費すら残っておらず、まさに背水の陣での受験だったという。
しかし言葉を交わす印象からは悲壮感など微塵もなく、どちらかと言えば少し天然気味のおっとりした雰囲気だ。
学費や生活費は奨学金を借りて賄い、卒業後に働いて返済する予定らしいが、万が一返済が滞れば過酷な戦場へ送り出される運命にあるのだとか。
会話の端々で頬を染め、私に深い親愛の視線を向けてくるエマ。加護の効果とはいえ、この純粋な感情を悪用して傷つけるような真似だけは絶対にしないと、私は心の中で静かに誓った。
それから一週間、私の日常は一定のルーティンへと落とし込まれていった。
午前中は主に剣術や体術の訓練場へ足を運び、午後は魔術や錬金術の講義に顔を出すのが日課となったのだ。
エマは剣術と体術を専攻しているため、午前中は常に私と行動を共にしている。
そして午後からは単独行動に移り、未来の可愛い女の子の仲間を探して校内を探索する日々が続いた。
それぞれの専攻講義は同時刻に複数の教室で行われているため、まだ見ぬ隠れた逸材も多いはずだ。
帝都へ赴いた本来の目的には「建築の勉強」もあったはずなのだが、まずは我が身を守るための安全策を構築することが最優先課題である。
決して、頭の中が女の子のことでいっぱいになっているわけではない。
絶対に、だ。




