第28.5話 【両花一実】
目立つSクラスパーティとしての存在感を隠し、あえてCランク冒険者のパーティとして街に溶け込んでいる私と、エマ、ミューの三人。
今日という日は、三人だけで過ごす水入らずの特別なデートだった。
「わあ、アルファ君! 見てください、この剣飾り! 凄く細かく彫刻がされていて、とっても可愛いです!」
活気あふれる城下町の武具市で、エマは年相応の少女のように目を輝かせながら私の左袖をぎゅっと掴んでいた。
「ふふ、エマさん。剣士としての眼光も素敵ですが、今日の可愛らしいお姿にはその蒼い髪飾りがとてもお似悪ですよ」
私の右隣を歩くミューが、日傘を優しく傾けながらおっとりと微笑む。
エマには武具市で見つけた蒼い花の髪飾りを、ミューには貴族御用達の服飾店で繊細な魔導レースのショールを贈ると、二人はまるで競い合うかのように頬を染め、私の両腕にぴったりと抱きついてきた。
賑やかな大通りを食べ歩き、他愛もない会話を交わしながら過ごす時間。
天然で素直なエマの弾けるような笑顔と、神秘的でおっとりとしたミューの優美な佇まい。
対照的な二人のヒロインと連だって歩く歩道は、道行く人々が思わず振り返るほど華やかな熱を帯びていた。
太陽が徐々に傾き、街が朱色に染まる頃、私たちはオメガ商会が手配した高級宿の最上階にある特別個室へと移動した。
静かな室内には洗練された料理が並び、上質なワインがグラスに注がれる。
「アルファ君、あ〜んです! 今日のデートの御礼に、私に食べさせてください!」
エマが照れくさそうに肉料理をフォークで差し出せば
「ふふ、ずるいですわエマさん。アルファさん、私の淹れたこのハーブティーも召し上がってくださいね」
ミューが甘い香りの立つカップをそっと差し出してくる。
食事を進めるうちに、ワインの酔いも手伝って二人の頬は鮮やかな桜色に染まっていった。
ガラス窓の外に散らばる街の明かりを見つめながら、エマがぽつりと口を開く。
「私……アルファ君と出会えて、ミューさんたちと出会えて、本当に幸せです。私なんかが、こんな特別な場所にいていいのかなって……」
「エマさん……」
ミューが優しくエマの手を重ね、私に潤んだ緑色の瞳を向けた。
「ええ、本当に。王国で静かに過ごしていた私に、このような温かく激しい感情を教えてくださったのはアルファさんです。今夜は……二人で、あなたに感謝をお返ししたいのです」
重厚な扉に鍵がかけられ、静まり返った寝室。
二つの異なる甘い体香と密やかな熱気が、部屋の空気と私の理性をどこまでも溶かしていく。
大きなベッドの上。
私を挟むように左右から肌をすり寄せてくるエマとミューは、互いの存在を肌越しに意識しながら、潤んだ瞳で熱い視線を私に注いでいた。
「アルファ君……私、ミューさんと一緒だなんて……体中が熱くて、胸がはちきれそうなんです……っ」
エマが耳まで真っ赤に染め上げ、私の左手へしがみつくように細い指をギュッと絡めてくる。
剣を振るうしなやかな指先は今や可憐な乙女そのもので、私に触れられているだけで小さく微震していた。
「ふふ、エマさん。そんなに身を固くされなくても……大丈夫ですわ。ほら……アルファ様の体温が、こんなにも伝わってきますでしょう……?」
私の右側に滑り込んできたミューが、うっとりとした声でエマを宥める。
だが、私の右腕をその豊かな双丘の間で優しく包み込む彼女の胸の鼓動もまた、驚くほど速く、熱く打ち鳴らされていた。
二人から同時に伝わる柔らかな感触と、吐き出される甘く乱れた吐息。
私はまず、照れと興奮で頬を火照らせているエマを引き寄せ、その可憐な唇を逃がさず深く塞いだ。
「んんっ……ふ、アルファ君……っ、ん、はぁっ……」
口内を舌で優しく探ると、エマの口から甘い喘ぎが漏れ出し、絡められた手から強張りが解けていく。
純粋な彼女はすぐに瞳をうっとりと揺らせ、私の首元へと愛おしそうに腕を回して身を委ねてきた。
「あら……ずるいですわ、アルファさん。エマさんばかり……私にも、その熱いお仕置きをくださいませ……」
嫉妬を孕んだ甘い甘え声を囁きながら、ミューが私の背中にしなやかな体をぴったりと押し当ててくる。
薄布越しでもわかるエルフ特有の滑らかな肌の触感と、熟した果実のような香りが私の理性を鋭く突き動かした。
私はエマの唇を名残惜しく離すと、すぐさま振り返ってミューの美しい白頸を引き寄せ、引きずり込むようにその甘い唇を奪い去った。
「んっ……ふふっ……あっ……はむ……んぁ……っ」
おっとりとした普段の姿からは想像もつかないほど濃厚に、ミューは自身の舌を絡め返し、しがみつくように私を抱き寄せてくる。
彼女の黄金の長髪が私とエマの肌を心地よく撫で、熱気をさらに跳ね上げた。
「あ……アルファ君っ、私……置いていかないでください……っ!」
私をミューに独占されまいと、エマが恥じらいを捨てて私の服の裾を強く引き寄せ、自身の身体を擦り付けてきた。
その一途で貪欲なおねだりに耐えかね、私は二人を一度に両腕で抱き締め、ベッドの上へと押し倒した。
私の手がエマの服の帯を解き明かし、同時にミューの柔らかな衣類の留め具を外していく。
朝日のように眩しく白いふたつの肌が露わになり、妖しい光の下で重なり合った。
エマの可憐な身体が歓喜に可愛らしく跳ね、ミューのしなやかな肢体が艶やかにとしなる。
「あぁっ……アルファ君の手、熱くて……溶けちゃいそうです……っ」
「ふふ……エマさんの肌も、こんなに朱に染まって……すごく素直ですね……」
私に撫でさすられ、蜜を吸い上げられるような愛撫を受ける中で、二人は互いの吐息と体温に当てられるように自然と肌を擦り合わせ、甘い声を交差させていく。
天然で素直なエマの愛らしさと、神秘的で濃厚な情念を解き放ったミューの艶っぽさ。
まったく異なる魅力を持つ二人の喘ぎが響き渡る。
「エマ、ミュー……今夜はどちらも、満足するまで離さないよ」
「はいっ……! どこへも行きません……! あなたの熱で、私を……私をもっとぐちゃぐちゃにしてください……っ!」
「私を……私たち二人を、アルファさんのお体で満たしてくださいませ……」
重なり合う体温とどこまでも深まる熱気の中、どちらか一方を選ぶことなどできない濃厚な蜜月が二人を包み込み、ゆっくりと深い夜の闇の中へ沈んでいった。
翌朝。
薄カーテンの隙間からやわらかな光が差し込む中で目を覚ますと、私の胸元には二人の温もりがしっかりと残っていた。
左側には、私の胸に額を押し当ててすやすやと寝息を立てるエマ。
右側には、私の首筋に鼻先をすり寄せ、幸せそうに頬を緩めるミュー。
昨夜の激しい情熱の痕跡が、二人の白く滑らかな肌に鮮やかに残っている。
私が動くと、エマがくすぐったそうに眉を寄せ、寝ぼけ眼を開けた。
「ん……アルファ君……おはようございます……。夢じゃ、なかったんですね……」
ふにゃりと甘い笑みを浮かべ、さらに私に強く抱きついてくる。
「おはよう、エマ」
私がそのおでこに口づけを落とすと、隣でミューもゆっくりと瞳を開けた。
「ふふ……おはようございます、私の愛しいお方。今朝のアルファさんも、とっても素敵ですわ」
ミューはしなやかな腕を回し、私の頬を優しく撫でる。
二人を同時に強く抱き締め返すと、部屋の中には再び甘く心地よい余韻と、終わることのない愛情が満ちあふれていくのだった。




