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オメガ建国記  作者: 九十九(つくも)
第二章 組織拡大編
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第28話 【甘美】

 王都の喧騒が広がる中央通り。

 ミューとラムダは買い出しの途中で、路地裏から聞こえてくる威勢の良い声に足を止めた。


「さあさあ寄ってらっしゃい! これぞ古代遺跡から発掘された伝説の神具『飲むだけで知力が300上がって一生お金に困らなくなる、ハッピー超運気アゲアゲ壺』だぁ!」


 胡散臭い露天商が声を張り上げている。

 その目の前には、銀髪を揺らし、豊満な胸元を大きく上下させながら「ふあぁぁっ……!」と目をキラキラ輝かせているダークエルフの少女――シェリルがいた。


「すごい……! 飲むだけで頭が良くなってお金持ちになれるなんて、私にピッタリの壺です~!」


「だろぉ? 本来なら金貨100枚のところ、お姉さんの可愛さに免じて、特別に全財産の金貨30枚と、その綺麗な指輪と、着ている上着もついでに付けてくれれば譲ってあげるよ!」


「本当ですか!? おじさん、なんてイイ人なんですか~! ええと、お財布とお洋服を脱いで……」


「待ちなさいッ!!」


 服のボタンに手をかけていたシェリルの手首を、駆け込んできたミューがガシッと掴んで止めた。


「ミューさん!? それに魔人族のお姉さん!?」


「あんたバカなの!? 『ハッピー超運気アゲアゲ壺』って何よ! ただの素焼きの素朴な壺じゃない! 服まで脱いで騙されようとしてんじゃないわよ!」


 ラムダが額を押さえながら叫ぶ。

 露天商はチッと舌打ちをすると、荷物をまとめて一目散に路地裏へと逃げ去っていった。


「ふえぇぇ……また騙されちゃってたんですか~? 私、凄腕(自称)魔術士なのに、いつもこうなんです~……」


 二人はへたり込むシェリルを連れ、近くの喫茶店へと入った。



 あたたかい紅茶とケーキを口に運ばせながら事情を聞くと、シェリルはエスクワ聖国出身で、幼い頃から身寄りのない孤児として育ったという。

 火と風の凄まじい魔法の才能がありながら、あまりの天然さゆえに昔から悪徳商人にカモにされ続けてきたらしい。


「冒険者になろうと王都に来たんですけど、宿代も騙し取られちゃいそうで……」


 弱り果てるシェリルだったが、その薄手な魔術衣の上からでもはっきりと分かる圧倒的なボディラインに、店内中の男たちの視線が釘付けになっていた。


(この子、天然な上に無防備すぎるわ……! このまま野放しにしたら、次は怪しい男たちに身体目的で拐われるのが目に見えているわね!)


 ラムダがハラハラしながらミューに目配せを送る。

 ミューもまた、大切な妹を見るような深い心配の眼差しをシェリルに向けた。


「シェリルさん。もし行く当てがないのなら、私の『従者』として私たちの屋敷に来ませんか? あなたを悪意から守り、その力を正しく活かせる場所があります」


「ミューさんの従者……!? 私、助けてもらったあの日からずっとミューさんに憧れてたんです! お供させてください~!」



 屋敷の応接室へ到着すると、シェリルは迷うことなく即答した。


 ミューが手をかざして【従者契約】の加護を発動させると、純白の光の紋章がシェリルの体内に溶け込み、二人の魂の回路があっさりと結ばれた。



「ふむ、なるほどね。シェリル、ミューの従者になってくれてありがとう。君の素直さと秘めた才能を歓迎するよ」


 執務室にて報告を受けた私は、ミューの隣で緊張気味に佇むシェリルを出迎えた。


 そして、改めるように彼女の姿を上から下へと見つめた瞬間――私の視線は釘付けになった。


 神秘的な銀髪に映える健康的な褐色肌。

 キュッと引き締まった細いウエストと、そこから描かれる美しい曲線美。

 何より、薄手の魔術衣を押し押し押し上げ、布地が悲鳴を上げんばかりに自己主張している圧倒的な超弩級バスト――!


「おおおおっ……! な、なんという……なんという造形美なんだッ!!」


 気づけば私はバンッと豪快にデスクを叩き、身を乗り出していた。


「素晴らしい! 素晴らしすぎるよシェリル! 細く引き締まったウエストから爆発的な主張を見せる豊かな胸元、そしてエキゾチックな褐色肌とのコントラスト……まさに神の気まぐれが産み落とした奇跡の黄金比率ゴールデンプロポーションじゃないかッ!!」


 熱弁を振るいながら興奮気味に両拳を握りしめ、パァンと拍手まで送る私。


 当のシェリルは

「えへへ、なんだかよく分かんないですけど、すっごく褒められてます~!」

 と嬉しそうに胸を張る。


 その動作によってさらに豊満な胸がプルンと揺れ、私は「うむ、ブラボー……!」と深々と噛みしめるように頷いた。


 しかし次の瞬間。


「……」

「……」

「……」


 執務室の空気が一瞬で氷点下にまで凍りついた。


 エマは肘を組んで般若のような冷徹な視線を注ぎ、カイは心底ゴミを見るような目で軽蔑の吐息を漏らしている。

 ラムダとアモルに至っては「はぁ……また病気が始まったわ」と引きちぎらんばかりの嫌悪顔で頭を抱えていた。


 さらには、普段はおっとり優しいミューまでもが、ふんわりとした笑顔のまま瞳の奥から光を消し、冷ややかな眼差しでじっと私を見つめている。


「コホンッ……! 失礼、芸術的観念からつい熱が入ってしまったよ」


 背筋に走る強烈な寒気に冷や汗をかいた私は、そっと着席して咳払いを挟み、何事もなかったかのように表情を一変させた。


「さて、ミューの大切な従者となった君に、私からも贈り物をしよう。【基本能力向上】の加護を授けるよ」


 私が手をかざすと、眩い光の粒子がシェリルの全身を包み込んだ。


【基本能力向上】の加護が発動し、彼女の肉体と魔力量は一気にAランク冒険者相当へと引き上げられた。さらに、既存の『火』『風』属性に加え、ミューとの主従の絆によって『光』属性の才能が開花。それら三属性の最上級魔術を自在に操る圧倒的な潜在能力が授けられたのだ。


「ひゃあぁっ!? 体の奥からとんでもない魔力が溢れてきます~!?」


「すごいわ、一瞬で超一流の魔術士になっちゃった……! これで怪しい壺も魔法で吹き飛ばせるわね!」

 ラムダが目を丸くする。


「ふふ、これでシェリルさんも、自慢の従者ですね」

 ミューはおっとりとシェリルの肩を抱き寄せた。


「はいっ! ミュー様、アルファ様! もう騙されずに、ミュー様のために頑張ります~!」


 最上級魔法の輝きを身に纏い、シェリルは満開の笑顔を咲かせたのだった。



挿絵(By みてみん)


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