第21.5話 【ロザ日和】
「……静かです。アルファ様とこうして歩いていると……心が、安らぎます」
言葉数の少ないロザとのデートに、賑やかな街の喧騒は必要なかった。
私達が選んだのは、城下町から少し離れた郊外にある、豊かな緑と清流に囲まれた美しい渓谷だった。
Cランク冒険者の装いで、木々の間を静かに並んで歩く二人。
ロザは言葉こそ少ないものの、鬼人族特有の美しい動き、歩幅をピッタリと私に合わせてくる仕草から、彼女がどれほどこの時間を噛みしめているかが痛いほど伝わってきた。
途中、少しぬかるんだ道を歩く際、私が自然に手を差し出すと、ロザはハッとしたように目を見開いた。
手袋を外し、壊れ物を扱うかのように優しく、私の手を両手で握り返してくる。
「……アルファ様の手は、とても温かいです。剣を握るための手なのに……私を包み込んでくれる時は、とても優しい……」
やがて私達は、渓谷の奥深くにある美しい滝壺へと辿り着いた。激しい水飛沫が日光を浴びて虹を描いている。
岩場に腰掛け、冷たい水飛沫を浴びて少し寒そうにしたロザの肩に、私は自分の上着をかけてやった。
ロザは上着から漂う私の匂いを愛おしそうに吸い込み、肩をすくませる。
「ロザ、水滴がついているぞ」
私が身を乗り出し、彼女の額や頬についた小さな水滴を指で拭ってやると、ロザの身体がビクッと跳ね上がった。
彼女の耳は一瞬で真っ赤に染まり、握りしめた拳がかすかに震えている。
「……アルファ様。私は……戦うことしか知らん、不器用な鬼人の女です。甘い言葉も、男を惑わすような仕草も……何も知りません」
ロザは絶対に視線を逸らそうとせず、まっすぐに私の瞳を見つめ返してきた。
その寡黙な瞳の奥で、激しい情念の炎が揺らめいている。
「ですが……あなたに触れられるたび、胸の奥が焼き切れるほど熱くなるのです。この感覚が何なのか……私に、もっと奥まで教えてください。……私は、あなただけの剣であり……あなただけの女です」
不器用だからこそ、一切の偽りがない絶対の忠誠と愛。
私は彼女の覚悟を受け止め、華奢な身体を強く引き寄せて、深く、長く唇を重ね合わせた。
宿へ行き、二人きりの部屋になると、ロザは緊張した面持ちでベッドの端に腰掛けた。
ロザは何も言わず、ただじっと私の瞳を静かに見つめている。
だが、隠しきれない耳尖は真っ赤に染まり、膝の上で握られた彼女の小さな手はかすかに震えていた。
私がその手をそっと包み込み、ゆっくりとベッドへ倒し込むと、彼女は意を決したように視線を重ねてきた。
「……アルファ様。私は……身体も心も、すべてあなたのものです」
ポツリとこぼされた覚悟の込められた一言に応えるように、私は彼女の華奢な体を抱き寄せ、深く口づけを交わした。
寡黙な彼女がかすかに漏らす喘ぎ声と、熱を帯びた肌のぬくもりが、二人の夜をゆっくりと満たしていった。
眩しい朝の光の中、ロザは私の肩口にそっと額を預け、静かに息を整えていた。
「……温かいです。アルファ様のおそばは……とても」
普段の寡黙でクールな剣士の姿が嘘のように、心地よさそうに目を細め、愛おしそうに私の肌のぬくもりを確かめるようにすり寄ってくる。
「ロザ、体は痛むか?」
「いいえ……アルファ様の愛を感じて、胸の奥が満たされています……」
滅多に見せない、愛に解ろけた柔らかい微笑み。
私は彼女の鬼の角の根元を優しく撫でてやると、ロザは「んっ……」と甘い声を漏らし、私にすっぽりと包まれながら再び幸せそうに瞳を閉じるのだった。




