第21話 【昇華】
ボロ宿での出会いから一夜が明け、私は買い戻した彼らの質流れ品の武具防具一式を揃え、黒鉄の獅子の四人を屋敷へと招き入れた。
広間に集まったエマ、ミュー、カイ、ラムダ、ロザ、アモル、そしてアシュレーたちファミリアの面々を前に、四人を引き合わせる。
「今日からオメガ商会の専属護衛、特にお屋敷の警備や外部での護衛を引き受けてもらう『黒鉄の獅子』の皆さんです。リーダーのバッシュさん、副リーダーのガゼルさん、魔術士のジークさんとルークさんですよ」
「バッシュと申します! アルファ様と皆様のため、この命を粉骨砕身捧げる所存です!」
新調された服に身を包んだ三十代の男四人が、緊張した面持ちで一斉に深く頭を下げる。
エマやアモルたちは温かい笑顔で迎え入れ、参謀のカイは冷静かつ的確に今後の運用について説明を進めていく。
「あなた方の主な業務は、普段はこの屋敷の警備です。そしてアモルが商会活動などで外出する際は、必ず剣士一人、魔術士一人の二人体制で護衛に付いてください。勤務時間は朝から夕方までとし、夜間については屋敷に結界魔法を施すつもりです」
「ははっ! 」
「それと……秘密保持のため、アルファ様と全員で【従者契約】を結んでいただきます。当家の内部情報やアルファ様の能力に関する記憶は、第三者へ漏洩できないよう魂に刻まれますが、異論はありませんか?」
「異論などあるはずがありません! むしろ喜んで契約させていただきます!」
バッシュたちは一切の迷いなく膝を折り、私との従者契約を完了させた。
これで情報の絶対的な秘匿が約束される。
続いて、テーブルの上に並べられた彼らの古い装備類に視線を向ける。
長年の死線で刃こぼれし、革が擦り切れた劣悪な武具だ。
「バッシュさん、皆さん。これから皆さんの装備を整えますね」
私は静かに右手をかざし、私の加護【設計】を発動させた。
手元から溢れ出た眩いばかりの神聖な光が、古い剣や大剣、杖、防具一式を包み込んでいく。
原子レベルで物質が分解・再構築され、錆や傷が瞬く間に消え去っていった。
光が収まった時、そこに転がっていたのはただの古着やなまくらではない。
深みのある鋼の光沢を放つ至高の剣と大剣、魔力を自動増幅させる重厚な魔術衣――見た目は新品同様でありながら、秘められた性能と付与効果は一国に数個と存在しない『国宝級』のアーティファクトへと変貌を遂げていた。
「な……なんだこの溢れ出る魔力と切れ味は……!? 質の悪い鉄剣だったものが、国宝レベルの神剣になっている……!?」
「俺の大剣も……持っただけで身体中に力が湧いてきやがる……!」
バッシュとガゼルが目を剥き出し、ジークとルークも新しくなった魔導杖を震える手で握りしめて歓喜の声を上げた。
さらに、私はそのまま四人の身体へ直接、人体改変を伴う基本能力向上の加護を施した。
本来であれば、負荷に耐えきれず猛烈な激痛や高熱といった重度の「状態異常」の副作用が発生する。
しかし、彼ら四人は幾多の死線を血反吐を吐きながら潜り抜けてきた、常人を遥かに超える強大な「気力値」の持ち主だった。
その規格外の精神力と底力が防波堤となり、本来なら重篤な状態異常を引き起こすほどの副作用を抑え込み、わずかに「身体が少し重く感じる、だるさが出る程度」の軽い症状に留めてみせたのだった。
「うおっ……急に全身がズシリと重くなったような……少しだるいですが、何だか体の中から凄まじい力が湧き上がってきますね……!」
従者契約と能力向上の加護、そして装備の再構築による底上げ効果が見事に噛み合い、元々はC〜Bランク止まりだった彼ら四人の潜在能力が一気に覚醒した。
体内の魔力循環と身体能力が跳ね上がり、四人の戦闘能力は一瞬にして『Aランク冒険者相当』へと引き上げられたのだ。
「凄まじいな……少しだるさは残るが、身体の奥に眠る力が桁違いだ。これなら、ドラゴンの群れが相手でも後体に引かんぞ……!」
圧倒的な力を手に入れたことに困惑しつつも、バッシュたちは自らの体に宿る強大な力に震えていた。
「最後に、皆さんの待機場所です。屋敷の中ではなく、すぐ隣に用意しますね」
私は屋敷の敷地内、本館のすぐ横にある空き地へと彼らを案内した。
再び【設計】の加護を発動させると、地面から大地が隆起し、あらかじめ空間収納から取り出していた木材と石材が複雑に組み合わさっていく。
わずか数秒の光の閃光と共に、そこには頑丈で洗練された平屋の待機小屋が一瞬にして立ち上がった。
内部には十分な休憩スペース、仮眠用のベッド、武具の手入れ場まで完璧に備わっている。
「なっ!、一瞬でこんな立派な小屋を建てちまうなんて……アルファ様は本当に神か何かですか……!?」
バッシュたちは開いた口が塞がらない様子で立ち尽くしていた。
「これからよろしくお願いしますね、皆さん」
こうして、国宝級の装備とAランク相当の超絶的な実力、そして快適な拠点を手に入れた『黒鉄の獅子』。
人情に厚いベテラン傭兵たちは、私への絶対の忠誠を胸に、鉄壁の警備部隊として新たな一歩を踏み出したのだった。




