第2話 【加護】
十四歳の誕生日から数日、私は様々な方法で自分の加護【創造】について思考を巡らせ、検証を重ねていた。
しかし、その正体は未だ深い謎に包まれたままであった。
試しに新しい家具の設計図を描いてみたが……特に不思議な力が発動する気配もなく、日課の木工作業においても何一つ変化は見られない。
まさに、謎である。
十四歳という年齢が障壁となり能力が解放されていないのか、はたまた特殊な発動条件が存在するのか、さっぱり見当がつかないのだった。
街で働く本職の大工たちにも片っ端から聞き込んでみたが、彼らの中に同じような名前の加護を持つ者はいなかった。
それどころか「そんな加護の名は聞いたこともない」と言われる始末であり、私の将来設計は早くも暗雲が立ち込めていた。
そこで私は藁にもすがる思いで、洗礼の儀式を受けた大聖堂へと向かい、あの神父様を訪ねることにしたのだ。
「アルファ君と言ったかな。加護の内容については、本人しかその真の姿を感じ取ることはできないのだよ。焦らずじっくりと己の内に潜む能力を解析してみなさい。それこそが、自らの人生を深く味わって生きることにも繋がってくるのです。」
洗礼の時には厳かさゆえに感じ取れなかった神父様の慈愛に満ちた言葉に、私の心から焦燥感がすっと引き引いていくのが分かった。
「アルファ君、創造神様は万物創世の神として、剣神や農神、魔神など数々の神々の頂点に立たれる尊きお方じゃ。その創造神様の『創造』の名を冠する加護なのじゃから、もっと視野を広く持ち、自由に考えてごらんなさい。」
やはり私は、目の前の事象に囚われすぎて焦っていたようだ。
視野を広げて考える……創造とは、一体何か。焦らず、じっくりと解き明かしていけばいいのだ。
とはいえ、聖堂からの帰り道、賑やかな街並みを眺めているとどうしても加護のことが頭をよぎってしまう。
そもそも、人にはそれぞれ持って生まれた能力や才能というものがあるが、誰もがその能力に応じた職業に就いているとは限らないのだ。
特別な加護を授かった者は別として、我が家を見渡してもそうである。
父オールは、屈強とは言えずとも冒険者のように引き締まった体付きをしているにもかかわらず、本職は役場で書類と格闘する事務員だ。
母エリスも同様である。
息子の目から見ても、エリスの整った容姿は貴族のような上流階級の婦人にも引けを取らない。
もし違う道を選んでいれば、歌い手や踊り子として大衆を魅了するような、華やかで優雅な人生を送れていたはずなのだ。
人は誰しも、己の能力や秘めた才能を加護として授からなかったという理由だけで、完全に活かし切ることなく生きていく。そして、それこそがこの世界の「普通」なのだ。
人の持つ本当の能力や才能を、ひと目で見通せる『能力』があればいいのに――。
その瞬間、私の頭の中で何かが解き放たれるような激しい衝撃が走った。
誰かが脳内に直接語りかけてくるような異質な感覚。
同時に、私の視界の真っ只中に眩い光を放つ文字が浮かび上がった。
……加護【創造】を発動……
……新たな加護を作成します……
……加護の名前、効果を作成してください……
(おいおいおい、発動!? 加護を作成!? 何だこれ、周囲の人達には見えてないのか!? え、ちょっと待ってくれよ!)
突如として視界を覆った異常事態に、私は完全なパニック状態へと陥った。
(落ち着け、落ち着け僕! 発動したのか? 創造の加護が? え……大工の加護じゃなかったのか!?)
激しく鼓動する心臓を宥め、事態を必死に整理する。
どうやら、私の秘められた【創造】の加護が発動したことだけは紛れもない事実のようだった。
人の本当の能力や才能を見抜く『能力』があれば――そう頭の中で強く思い描いたことが、トリガーとなったのだ。
(そうか……!【創造】とは大工仕事なんかじゃない。加護そのものを生み出し、作り上げる能力なんじゃないのか!?)
震える手で目元を覆いながらも、思考を加速させる。
とにかく発動したのだ。ならば、実際に使用しながら仕様を確かめるしかない。
名前:鑑定
効果:人間の真の能力や隠された才能を見ることができる
私は頭の中で、その詳細なイメージを強く思い描いた。
……新たな加護を作成し、対象に付与します……
脳裏に響く無機質な声と共に、視界を覆っていた文字が静かに消えていく。
「お、終わった……のか? これで終わりなのか……?」
呆気ないほど静かな、人生で初めての加護発動の瞬間だった。
周囲を行き交う人々は、私の異常な動揺に気づく様子もなく、至って普通に通りを往来している。
私は意を決し、目の前で声を張っている八百屋の店主をじっと見つめ、心の中でその名を唱えた。
(――『鑑定』!)
名前:ジーニス(人族)
年齢:52歳
職業:八百屋
基本能力:
腕力42 魔力00 走力21 知力40 魅力54
特殊能力:
商人(八百屋に限る)
加護:
なし
「おーーーーっ!?」
目の前の空中に突如として浮かび上がったステータス画面に、私は思わず街中で雄叫びを上げてしまった。
当然ながら、周囲の通行人たちから「なんだあいつは」と言いたげな視線が突き刺さるが、そんな視線など気にする余裕などない!
そうだ、【創造】とは新たな加護を無限に生み出す、まさに万物創世の名にふさわしい規格外の加護だったのだ!
八百屋の親父で試した感じからして、基本能力の数値は何となくイメージがつく。加護の有無も一目瞭然だ。
特殊能力の『商人(八百屋に限る)』というのは……おそらく長年の経験によって後天的に習得した熟練度のようなものだろう。
もっと色々な人物を観察して、検証を重ねる必要がある。
郊外にある自宅までの帰り道、私はすれ違う老若男女を片っ端から『鑑定』し、いくつかの重要な法則を導き出すことに成功した。
まず名前の項目は、偽名や通称を使っていようとも本名の横にしっかりと表示されるため、私に対して嘘や偽りは一切通用しないということ。
職業欄にはその人物が主に生計を立てている主業が示され、基本能力はほぼ間違いなく「100」を上限とした数値化がなされているということだ。
もっとも、100を超える規格外の人物に遭遇していない現時点では、上限についてはまだ推測の域を出ないが。
そして特殊能力は、やはり人生の経験や訓練によって後から獲得された技術やスキルの類である可能性が極めて高い。
ひとまず、私の加護を巡る謎が解明されたことで、胸の仕えが下りて一安心した。
しかし同時に、背筋が凍りつくような強い不安が私の胸を締め付ける。
この【創造】という加護の真価……もしも神国や国家の権力者、あるいは良からぬ企みを持つ悪人に知られたらどうなるか。
間違いなく私は捕らえられ、能力を悪用されるか、都合の良い道具として一生を囚われて過ごすことになるだろう。
加護のさらなる詳細な検証と、これから先どのような顔をして生きていくべきか。
私は己の身の振り方を、極めて慎重に考えねばならないと深く痛感するのだった。




