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オメガ建国記  作者: 九十九(つくも)
第一章 学院学生編
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第12.5話 【ラムダ日和】

 「ちょっとアルファ! 何ボーッと突っ立ってんのよ! ほら、あっちの串焼き屋、凄く良い匂いがするじゃない! 遅れたら置いてっちゃうんだからね!」



 おてんばなラムダとの1泊2日のデートは、始まりから終わりまで元気とエネルギーに溢れていた。

 活気あふれる露店街を、ラムダは私の手を強引に引っぱりながら突き進んでいく。



 魔人族である彼女は、人間族の街では少なからず好奇や偏見の視線を集めてしまいがちだが、帝国高等学院生という庇護があるおかげで、何の憂いもなく羽を伸ばせていた。



 「ん〜〜っ! このタレ、甘辛くて最高! ほらアルファも一口食べなさいよ!」


 そう言って自分の食べていた串焼きを差し出してくるラムダ。

 私がそれをパクリと食べると、ラムダは満足そうにニシシと八重歯を覗かせて笑った。

 しかし私が「口元にタレがついてるぞ」と言って、彼女の柔らかい唇の端を親指でそっと拭い、それを自分の口元へ運んで舐めとった瞬間——ラムダの動きがピタリと止まった。


 「〜〜〜〜っ!? な、ななな、何してんのよバカぁっ! あんた、そういうことを平然とやるんじゃないわよっ!」


 顔を耳の先端まで真っ赤に跳ね上げ、湯気を吹き出しそうな勢いで抗議するラムダ。

 強気な言動とは裏腹に、恋愛に関しては免疫が薄い彼女のギャップに、私は思わずクスリと笑みを漏らした。



 やがて夜が訪れ、私達は街外れにある小高い丘へと足を運んだ。

 眼下には城下町の明かりが宝石を散りばめたように輝いている。

 涼しい夜風が私達の頬を撫でる中、先ほどまで騒がしかったラムダが、急に静かになった。


 「……ねえ、アルファ」


 ぽつりと漏らされた声は、夜風にかき消されそうなほど小さかった。

 ラムダは両膝を抱え、夜景を見つめたまま語り始める。


 「わたしね……本当はちょっと怖かったの。魔人族のわたしが、あんたの隣にいていいのかなって。みんな可愛くて優秀だし……わたしだけ浮いてないかなって」


 強がりの裏に隠されていた、少女らしい不安と孤独。私は何も言わず、彼女の細い肩を抱き寄せ、自分の体温を分けるように強く引き寄せた。


 「アルファ……っ」


 ラムダの瞳に涙が浮かび、彼女は強がるのを完全に諦めて、私の胸板に全力で額を押し付けてきた。

 その小さな手が、逃すまいとするように私の服をギュッと掴む。


 「……バカ。優しくされたら、余計に離れられなくなるじゃない……。今夜は絶対、逃がしてあげないんだから。お部屋に戻ったら……わたしが一番だって、体で教え込みなさいよね……っ」


 顔を赤くしたまま、意地と甘えが混ざり合った瞳で見つめてくるラムダ。

 私は彼女の頭を愛おしく撫でながら、宿までの道のりを楽しんだ。



 部屋へと戻り、扉に南京錠がかかる。


 「ふ、ふん! 今夜は私が一番かわいがってもらうんだからね! 覚悟しなさいよ!」


 勢いよく啖呵を切ったものの、私の手がそっと腰に回った瞬間


 「ひゃいっ……!?」


 と可愛らしい悲鳴をあげるラムダ。


 強がっていた姿勢は一瞬で崩れ去り、赤熟した顔を隠すようにして私の胸元に勢いよく頭を押し付けてきた。

 規則正しく打つ彼女の鼓動と、背中に回された小さな手の震えを感じながら、私はその華奢な体を強く抱きしめ、ゆっくりとベッドへ押し倒した。


 彼女の柔らかな肌を愛で、耳元で甘い言葉を囁くたびに、ラムダは強がりを忘れて私の首にしがみついてくる。



 翌朝、カーテンの隙間から朝日が差し込む。


 「ちょっとアルファ……っ! 昨夜はやりすぎだって途中で何度も言ったでしょ……!」


 朝、シーツをすっぽりと頭までかぶり、顔だけを出して文句を言うラムダ。

 しかし、その表情は昨夜の満足感と愛された喜びでトロけきっており、全く怒りを含んでいない。


 私差し出した手を見ると、口ではブツブツと小言を叩きながらも、どこか嬉しそうにその手を両手でぎゅっと握り返してきた。


 「ラムダ、まだ怒ってるのか?」

 「……怒ってないわよ。ただ……あんたの手が温かすぎて、離れられなくなってるだけよ」


 ツンとそっぽを向きながらも、体はすり寄せてくる。彼女の可愛らしい八重歯にそっと唇を重ねると、ラムダは


 「〜〜っ、朝から反則!」


と真っ赤になりながら、降参したように私の腕の中で身体の力を抜くのだった。



挿絵(By みてみん)

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