第9.5話 【ミュー日和】
「ふふ、アルファさんとお散歩できるなんて、なんだか静かな夢の中にいるようですね……」
おっとりとした雰囲気を纏うミューとの1泊2日のお泊まりデートは、時間がゆるやかに流れるような穏やかなものだった。
私達が訪れたのは、街の喧騒から少し離れた場所にある、静かな喫茶店。
静かなテラス席で、ミューは繊細な手つきでティーカップを傾け、私との会話の一言一言を愛おしむように噛みしめていた。
「王国におりました頃は、このような甘いお菓子や、温かい紅茶を誰かと分かち合う喜びを知りませんでした。すべて、アルファさんが私に教えてくださった世界です」
嬉しそうに目を細める彼女の笑顔は、まるで咲き誇る大輪の花のように美しい。
喫茶店をあとにした私達は、ミューの希望で、様々な珍しい魔導植物を育てる大温室へと向かった。
ガラス張りの天井から月光が差し込み、夜の温室は幻想的な光に包まれている。
植物たちの精霊と心を通わせるように楽しそうに歩いていたミューだったが、誰もいない巨大な観葉植物の陰に入った際、ふっと足を止めた。
彼女はそっと振り返り、私のジャケットの袖を優しく引いた。
「アルファさん……少し、こちらに来ていただけますか?」
促されるまま一歩歩み寄ると、ミューは自分の細い手で私の手を取り、それを自身の豊かな胸元へとそっと導いた。
薄い布地越しに伝わってくるのは、彼女の柔らかな感触と——トクン、トクン、と激しく打ち鳴らされる心臓の鼓動だった。
「……聞こえますか? 私の鼓動です」
おっとりとした普段の口調とは裏腹に、彼女の鼓動は驚くほど速く、熱を帯びている。
見上げつめるミューの緑色の瞳は、深く潤み、妖しいほどの艶を帯びていた。
「私、アルファさんに触れられているだけで……こうして見つめられているだけで、胸の奥が焼き尽くされそうになるほど熱くなってしまうのです。おっとりしているように見えて……本当は、私、すごく欲張りなんですよ?」
エルフ特有の神秘的な美しさと、一人の女としての濃厚な情念。
ミューは私の首にそっと手を回し、耳元で甘く熱い吐息を吹きかけた。
「今夜は……私を解き放ってくださいませ、アルファさん……」
宿へ戻り、私達は引き寄せられるようにベッドへと倒れ込んだ。
「ふふ、アルファさん。そんなに焦らなくても、私はどこにも行きませんよ……?」
そう言って優しく微笑むと、ミューは私の手を取り、そっと自身の柔らかい頬へと導いた。
吸い込まれそうな深い瞳でうっとりと見つめ返してくる彼女。
普段のおっとりとした穏やかな雰囲気とは裏腹に、触れ合う肌からは熱い温もりが伝わり、吐き出される吐息はどこまでも甘く香る。
私が彼女の服の留め具を外し、白くしなやかな肌を露出させると、ミューはうっとりと瞳を細め、熱い肌をすり寄せてきた。
その惑わすような艶っぽさに引き込まれるように、私達は静かに夜の闇へと沈んでいった。
差し込む朝日の光の中、ミューは愛おしそうな穏やかな笑顔を浮かべ、私の髪を指先で優しく撫でていた。
「おはようございます、私の愛しいお方。昨夜は本当に、夢のような時間でしたね……」
昨夜の乱れた衣類から覗くしなやかな肌に、私がそっと口づけを落とすと、彼女は「ふふっ」と嬉しそうに目を細めた。
今この瞬間は恋に落ちたひとりの乙女そのものだ。
「アルファさん、もう少し……こうして抱き合っていさせてくださいませ。あなたの体温を感じていると、世界で一番幸せな心地になれるのです」
ミューは細い腕を私の腰に回し、豊かな胸を惜しげもなく押し当ててくる。
その妖艶で温かな甘さに包まれながら、私は彼女の美しい長髪に何度も指を通し、深い愛撫を捧げ続けるのだった。




