30.すぐ
開いてくださり、ありがとうございます!
さて、いよいよ桃華と鞠の試合が始まります。
2人の関係や、勝敗はどうなるのか。
お楽しみください。
※この作品には、残酷・暴力描写が含まれます
桃華と鞠の試合が、あと数分で始まる。
慈愛たちは、透明な箱の中でステージを見ていた。
もう、それが当たり前のようになってしまった。
見たくない、でも見なきゃいけない。
桃華と鞠が呼ばれた時点で、どちらかが死ぬことは、もう決まってしまっているから。
それをわかってたのに、俺は2人に声をかけることすらできなかった。
翡翠は、箱の隅でしゃがみ込んで泣いている。
柊も、隅の方に立って、ステージをじっと見つめている。
真夜は、静かに翡翠の隣に立った。
「…もう、すぐだな」
真夜は、震える声で呟いた。
「…うん」
俺は、静かに頷いた。
真夜の言葉に頷いた人は、慈愛だけだった。
桃華と鞠がステージに上がれば、もう戦いが始まる。
真夜の言葉を聞いた翡翠は、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、ステージを見た。
「ももか…まり…」
翡翠の言葉と同時に、ステージの左右から人が現れた。
観客は、珍しく静かだった。
「皆様お待たせいたしました!今回は、A施設から、桃華と鞠です!!」
司会者の、腹が立つほど明るい声が、会場と透明な箱の中に響いた。
ステージには、桃華を見つめて震えている鞠と、そんな鞠を見つめている桃華が立っていた。
2人を見た瞬間、俺は単純に、すごくいやだって思った。
2人は小さい頃からずっと一緒にいる。
喧嘩しても、なにをしてても、どんな時でも、2人はずっと一緒にいた。
そんな2人が殺し合うところを、俺はみたくなかった。
でも、世界は変わらないし、待ってくれない。
それならせめて、最期まで見届けたい。
慈愛はステージを見つめたまま、拳を強く握った。
少ししてから、桃華と鞠はステージの横側に立たされた。
今度は2人とも、お互いを見ていない。
「テーマは、女子高校生でーす!!!」
司会者は、そう言って2人の方に指を差した。
その言葉通り、2人は学校に着ていく制服を着ていた。
本で見たことがある。
たしか、セーラー服という名前だった気がする。
不覚にも、似合っていると思ってしまった。
「それでは、試合開始ぃぃぃい!!!!」
カンカンカンッ
金属を叩く音と共に、試合が開始された。
慈愛たちは、ステージを静かに見つめた。
会場が静まり返ると、2人はお互いの方に静かに歩み寄った。
「鞠」
桃華の声が、透明な箱の中に響いた。
「桃華…?!桃華の声が…!」
翡翠が、驚いてステージを凝視した。
慈愛も柊も、驚きすぎて、目が閉じられない。
おかしい。
だって、この箱の中は防音で、外の音が聞こえないはずだ。
「どういう…」
柊は驚きすぎて、言葉を途中で切った。
そんな俺らを見た真夜は、箱の側面を拳でノックした。
その音に慈愛たちはハッとし、真夜を見た。
「最終試合が近いから、マイクを設置して、音を
流してるんだと。」
真夜はそう言うと、ノックした壁に寄りかかり、ステージに目をやった。
「…皮肉だよな」
真夜は、泣きそうな、悔しそうな声でそう言った。
真夜の言葉と様子に、慈愛たちの興奮と驚きは、一気に冷めた。
そして慈愛たちは再び、ステージに目をやった。
鞠が、桃華の方へ歩いていく。
「桃華…」
鞠の声が箱に響いて、箱が小さく振動する。
「ねえ、覚えてる?あの日のこと。」
桃華が、確かめるように言う。
「覚えてるよ、忘れるわけない…」
鞠は力強く、桃華の問いに応える。
「そっか。私もだよ、鞠」
2人は、お互いの顔を見つめて、逸らさない。
そんな2人をみていた真夜は、つぶやいた。
「…なにかの、物語みたいだ」
俺も、同じことを思った。
今まで殺し合った子たちはみんな、あんなに覚悟と安堵に満ち溢れた顔をしていなかった。
2人はわかってるだろう。これが、最期だって。
それなのに、寂しいはずなのに。
「幸せそう…」
翡翠は、そう言って壁に手を置いた。
まるで、2人を愛おしく想い、撫でるように。
2人はしばらく、そうしてお互いを見つめていた。
鞠の体が、だんだんと震え始めた。
「桃華っ…」
鞠は、とうとう涙をこぼした。
「いいの…?私で…わたしがっ…」
言いかけた鞠の口を、桃華は優しく塞いだ。
「いいの。あんたがいいの。あんたしか、できないの」
桃華は、泣きそうな声で、まるで慰めるように、そう言った。
2人の会話は、俺たちには全くわからない。
なんの話をしているのか、なんであんなに、覚悟に満ち溢れた顔をしているのか。
「鞠」
桃華が、鞠の両頬を拭った。
「桃華…」
鞠は、桃華の手に自分の手を添えた。
そしてまた、2人は見つめ合った。
読んでくださり、ありがとうございました。
2人の試合を、慈愛たちがどれだけの覚悟と想いで見届けるか、見ているとこちらもつらくなりますね。
そして、2人の会話の意味はなんなのか。
次回も楽しみに!




