31.大丈夫だよ
開いてくださり、ありがとうございます!
桃華と鞠の試合も、終盤に近づいてきました。
彼女らの勝敗はどうなるのでしょう。
※この作品には残酷・残虐描写が含まれます
鞠、最期に観ようよ。
私たちの過去を。
静まり返った会場、悲しそうなみんなの顔、今は見なくていい。
私たちだけの世界だよ。
桃華は泣いている鞠の手を握り、その場に座り込んだ。
鞠は、桃華の手を強く握り返した。
そして2人は目を合わせ、ゆっくりと目を閉じた。
--私たちは、小さい頃からずっと一緒だった。
「鞠ー!はやく来なよー!」
「待ってよ桃華…!」
よく、鬼ごっこをして遊んでたっけ。
「桃華…?桃華、なにを見てるの?」
鞠は、立ち止まっている私に不思議そうに声をかけた。
5歳の頃、私は施設の抜け道を見つけてしまった。
それは壁にある小さな扉で、私たちが入るのもやっとなほどの大きさだった。
少しの隙間から、赤い光が差している。
あの時は、ほんの少しの好奇心だった。
「ねえ、行ってみようよ。」
私は鞠に提案した。
「だめだよ!大人の人に怒られちゃう…」
当然、鞠はそう言って私を止めた。
それでも私はこの先を確かめたくて、鞠を説得した。
「大丈夫だって!この扉小さいから大人も来れないよ!それに、もしかしたらお菓子の倉庫に着くのかも!」
私は都合のいいことを並べて、半ば強引に鞠の手を引いた。
鞠は嫌がったが、渋々私の手を握り返し、ついてきた。
小さな扉を抜けると、大きな通路に出た。
赤いランプのついた、薄暗い通路を、静かに歩いて進んだ。
通路には、自分たちの足音だけが不気味に響いた。
「ねえ怖いよ…戻ろうよ…」
鞠は、涙目になりながら訴えた。
「大丈夫だって。大人の人もいないから」
私は緊張と好奇心が混ざって、なんの説得力もないことを言って、鞠を安心させた。
鞠と桃華は、黙って薄気味悪い廊下をしばらく歩いた。
すると、一つの扉が現れた。
またもや鍵は空いていて、今度は隙間から白い光が差していた。
「…ここかもね。お菓子」
桃華は鞠の手を離し、扉をゆっくりと開けた。
部屋の明かりが、桃華たちを照らした。
その瞬間、私たちは固まった。
そこには、目を疑うものが並んでいた。
施設の様子が写っているモニター、再生途中の動画、施設の子達の顔写真付きの資料、メモ用紙。
そして、「オークションお得意様」と書かれたファイルが、棚にしまってあった。
「なに…これ…」
鞠は両手で自分の口を塞ぎ、震えた。
私も、幼いながらに、恐怖を感じたのを覚えている。
オークションお得意様と書かれた紙には、知らない人の名前がずらっと記されてある。
「だれ…これ」
「わかんない…。でも、施設の子達の名前じゃないね…」
私たちは、部屋のものを物色し始めた。
なんで物色したのかはわからない。
おそらく、お互いに好奇心からしてしまったのだろう。
みんなの写真が載った資料には、よくわからない単語がいっぱい使われていた。
メモ用紙には施設の子達のことや、なにかの会議のメモなどが書いてあった。
「これ、どういうこと?」
私はイライラしながら物色を終えた。
すると鞠は、一つのモニターを指差した。
「この動画…ちょっとおかしくない…?」
鞠は震える声で、桃華に声をかけた。
鞠の言うとおり、画面には少しおかしなものが写っていた。
男女が、いろんな色のついた綺麗な服をきていて、女の人が男の人を叩いているように見えたのだ。
「喧嘩してる…?」
鞠はそう言って、モニターから少し離れた。
怖がっているようだ。
それとは対照的に、私はモニターに近づいた。
「再生してみよ」
私はそう言って、再生ボタンを押そうとした。
でも、その手を鞠が止めた。
「ねえやめよ…?ほんとにやめよ…」
鞠は涙目になりながら訴えた。
その時に、やめておけばよかったんだ。
あの時の私は、どうしても好奇心には勝てなくて、だから再生してしまったんだ。
「ももかっ…」
鞠が何か言いかけたが、すぐに動画の音声にかき消された。
『うるさい!!あんたが死ねよ!!』
『は?!お前俺の彼女だろ?!だったら俺のために死ねよ!!』
男の人と女の人が、泣きながら怒鳴り合っている。
『よくも…そんなことが言えたわね…』
女の人は、半笑いでそう言い、ゆっくりと男の人に向かって歩き出す。
私は、息を呑んだ。
呼吸も浅く、息がしづらい。
鞠も、そうだったのだろうか。
画面に釘付けになっていた私の目に、次の瞬間、衝撃的なものが写った。
『しね…しね…しねしねしねしねしね!!!!』
女の人が男の人の上に乗って、そう叫びながら殴っている。
男の人の顔は、血でぐちゃぐちゃで、顔なのかも怪しいほど、怪我をしていた。
動画が終わる頃には、男の人は息をしていなかった。
動画の中で、女の人の勝利が宣言され、歓声が響いていた。
私はそれを見た瞬間、幼いながらに理解した。
私たちも、こうなるんだと。
その時、私は意外にも冷静だった。
動画は最後まで見た。
見終わったあとは、元の画面に戻し、部屋も元通りにした。
そして、泣いて放心状態になっている鞠の手を引いて、広場に向かって走った。
通路の不気味さなんて、もうとっくに忘れていた。
そんなこと、どうでもよかった。
あの動画を見た瞬間から、私の中ではもう決まっていた。
なんとしてでも、変えないと。
みんなを助けないと。
ずっと、それしか頭になかった。
あの時に、鞠と一緒に泣いていればよかった。
鞠と、泣いていれば…。
--「桃華…」
静かなステージに、鞠の声が響く。
気がつくと、私は目から涙を流していた。
「うん…」
私は笑って、頷いた。
鞠は、不安げな顔をしている。
もしかして、やめてしまうんじゃないかって。
そんな顔を。
大丈夫だよ、鞠。
ちゃんと、やる。やり遂げてみせる。
私は鞠の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。
「鞠」
鞠の名を呼ぶ。
「なに?桃華」
鞠が答える。
思わず、笑みが溢れた。
これが、当たり前の日常だったね、鞠。
これが、こんなに幸せだったなって感じられる日が来るなんて、思いもしなかったよ。
鞠の目は、まっすぐ私を捉えていた。
その目を見て、私は安心した。
「鞠、またね」
鞠は、笑顔で答えた。
「またねっ…桃華…!」
鞠の言葉が消えると同時に、桃華は鞠の首を、思いっきり打ちつけた。
嫌な感覚が、手に伝わる。
私はその感覚を、死んでも忘れられないだろう。
鞠の顔は一瞬歪んで、つらそうになった。
でもすぐに、意識がなくなった。
なんの抵抗もなく、鞠は硬い床に体を打ちつけた。
私は鞠の最期を、自分の目に映した。
悟られないように、ちゃんと隠さないと。
鞠が倒れる寸前、私はちゃんと笑えたよ。
鞠が倒れる音が、ステージに長く、鈍く残った。
鞠が、その場で目を覚ますことはなかった。
読んでくださり、ありがとうございました。
桃華と鞠の勝敗、そして過去の一部が明らかになりましたね。
2人は小さい頃からずっと一緒だったようです。
桃華の好奇心が先走り、2人は5歳の頃から世界の仕組みを理解していました。
桃華自身は、そのことを後悔しているようでしたが、はたして良くないことばかりだったのでしょうか。
みなさんは、桃華たちをどう思いましたか。
次話もお楽しみに!




