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第150話:攻城兵器登場

 冥界でルナたちが暴走劇を繰り広げている頃。


 ボルス率いる黒薔薇騎士団と、セシリア、テオによる必死の防衛戦は、開戦から数時間を経過し、膠着状態から新たな局面へと移行しようとしていた。


 ズシン、ズシン、ズシン……!


 突如、戦場の喧騒をかき消すような、腹の底に響く地響きが発生した。


 それは、ただの足音ではない。


 まるで小さな地震が周期的に起きているかのような、圧倒的な質量の接近を告げる震動だった。


「くそっ、なんだありゃあ!?」


 前線で戦斧を振るい、敵兵を薙ぎ払っていたボルスが、驚愕に目を見開いて叫んだ。


 敵陣の後方、巻き上がる土煙の中から、とてつもない巨大な影が姿を現したのだ。


 身長は優に10メートルを超えている。


 全身が黒曜石と鋼鉄の装甲で覆われ、関節部分からは不気味な魔力の光が漏れ出している。


 教会が禁忌の技術を用いて造り上げた、対要塞攻略用・自律駆動兵器――『攻城ゴーレム』だ。


「で、デカすぎる……! あんなのが工場まで来たら……!」


 リナが悲鳴に近い声を上げる。


 ゴーレムの太い腕には、城門を粉砕するための巨大な鉄製の破城槌が抱えられている。その直径は人間の背丈ほどもあり、一振りすれば、工場の外壁など紙細工のように吹き飛ぶだろう。


 狙いは明らかだ。


 物理的な破壊力で壁を貫通し、最深部にある第零格納庫――晶の眠る場所まで一直線に道をこじ開けるつもりだ。


「道を開けよ! 神の鉄槌が下るぞ!」


 ゴーレムの肩に乗った指揮官が、拡声魔法で勝ち誇ったように叫ぶ。


 ボルスたちは歯噛みした。


 こちらの装備は、あくまで対人戦を想定したものだ。


 テオの水圧カッターならあるいは切れるかもしれないが、あの巨体を止めるには水量が足りない。セシリアの毒霧も、無機物であるゴーレムには効果がない。


 まさに、「詰み」の状況だった。


 ズシン……!


 ゴーレムが足を止め、工場正面のバリケードを見下ろした。


 その巨大な破城槌がゆっくりと振り上げられる。


「終わりだ、薄汚い労働者ども! 聖女の遺体ごと、瓦礫の下に埋もれろぉぉ!」


 巨大な質量が、唸りを上げて振り下ろされようとした、その時。


「……ふっ。デカい図体しやがって」


 工場の奥――第1資材搬入口から、不敵な、そして野太い笑い声が響いた。


 スピーカーを通したその声の主は、ドワーフ族の第一王子、ガンドだ。


「現場をナメるんじゃねぇよ。……質量には質量だ! 野郎ども、準備はいいか!?」


 ガンドの声に呼応して、工場の巨大なシャッターが轟音と共に巻き上げられた。


『『『安全確認、ヨシッ!!』』』


 ドワーフたちの勇ましい唱和が響き渡る。


 次の瞬間、暗闇の中から、黄色と黒の警戒色(タイガーカラー)に塗装された、鋼鉄の怪物たちが飛び出した。


 ウィーン!! ガシャン!! ブォォォォンッ!!


「な、なんだあれは!?」


 敵兵たちが呆気にとられる。


 現れたのは、フォークリフト、クレーン、ブルドーザー、そしてパワーショベル。


 本来であれば、平和な土木作業に使われるはずの重機たちだ。


 だが、それらは明らかに「普通」ではなかった。


 月でのサイクロプス戦で刺激を受けた晶の設計哲学とガンドの魔改造により、エンジンは高出力魔導炉に換装され、アームは格闘戦用に強化され、運転席は装甲板で守られている。


 それは重機でありながら、換装によって対魔獣・対巨人用兵器にもなる、アステル最強の『決戦重機軍団』だった。


「出ろぉぉッ! この工場の安全は、俺たちが守る!」


 先頭を切るのは、ガンドが操縦する巨大な改造フォークリフト――コードネーム『剛腕ヘラクレス』だ。


 通常のフォークの代わりに、ミスリル合金製の鋭利なスパイク・クローが装着されている。


「うおぉぉッ! パワーなら負けねぇぞ!」


 ガンドがレバーを倒す。


 フォークリフトが爆発的な加速でゴーレムの足元へと潜り込んだ。


「小賢しい! 踏み潰せ!」


 ゴーレムが足を上げるが、ガンドの方が速い。


 フォークリフトの爪が、ゴーレムの軸足をガッチリと挟み込んだ。


「持ち上がれぇぇぇッ!」


 油圧シリンダーが悲鳴に近い駆動音を上げる。


 テコの原理と魔導パワーアシストが、規格外の重量を持つ巨体を強引に浮かせた。


「なっ、なんだと!?」


 バランスを崩し、ゴーレムが大きくたたらを踏む。


 そこへ、左右から次なる重機が殺到した。


「右舷よりアプローチ! 『旋回トルネード』、行きます!」


 右から現れたのは、旋回体にスパイク付きの鉄球をぶら下げた、高速機動クレーン車だ。


 操縦するのは、ドワーフ一のクレーン使い、若手作業員のバリィ。


 彼は車体をドリフトさせながら、遠心力を利用して鉄球を振り回した。


 ドォォォォォンッ!!


 音速で旋回した鉄球が、ゴーレムの側頭部に直撃する。


 岩石の装甲が砕け散り、ゴーレムの巨大な頭部がガクンと揺らいだ。


「さらに追撃! 『突進ブル』、押し込めぇぇ!」


 正面から突っ込んできたのは、前面に巨大な排土板ブレードを備えた超重装甲ブルドーザーだ。


 排土板には鋭利な牙のような突起が並び、地面を削りながらゴーレムの腹部へと激突した。


 ガガガガガガッ!!


 金属と岩が擦れ合い、火花が散る。


 圧倒的なトルクで、ブルドーザーがゴーレムを押し込んでいく。


「バ、馬鹿なッ! 教会の最高傑作であるゴーレムが、あんな訳の分からぬものに押されているだと!?」


 ゴーレム上の指揮官が絶叫する。


 だが、彼らは知らない。


 晶がこの重機たちに込めたスペックは、「ドラゴンと相撲がとれる」レベルであることを。


 そして何より、ドワーフたちの操縦技術は、ミリ単位の整地作業で鍛え上げられた神業であることを。


「おらおらおらぁ! ここは立ち入り禁止だっつってんだろうがぁ!」


 ガンドが叫ぶ。


 フォークリフトで体勢を崩させ、クレーンで視界を奪い、ブルドーザーで押し返す。


 完璧な連携チームワーク


 それは戦闘というよりも、巨大な構造物の解体作業を見ているようだった。


「とどめだ! パイルバンカー用意!」


 ガンドの合図で、後方に控えていたパワーショベルが進み出た。


 そのアームの先には、バケットの代わりに巨大な「杭打ち機」が装着されている。


「穿てぇぇぇッ!!」


 ズドォォォォォォォォンッ!!


 炸薬式の杭打ち機が火を吹いた。


 太さ30センチの杭が、ゴーレムの胸部にある動力炉の魔石めがけて射出される。


 硬い黒曜石の装甲も、この一点突破の衝撃には耐えられなかった。


 装甲が蜘蛛の巣状にひび割れ、次の瞬間、内部からまばゆい光が漏れ出した。


「ぐ、グオオオオオオ……!」


 断末魔のような駆動音を残し、ゴーレムの動きが停止する。


 そして。


 ズズズ……ドッシャァァァァン!!


 巨神は膝から崩れ落ち、盛大に土煙を上げて大地に伏した。


「よっしゃあぁぁッ! 解体完了ッ!」


 ガンドが運転席から身を乗り出し、拳を突き上げる。


 それを見たボルスたち、そして工場の作業員たちが一斉に歓声を上げた。


「すげぇ! 本当に勝っちまった!」


「見たか! これが俺たちの重機だ!」


「ドワーフの技術力は世界一ィィィ!」


 重機vsゴーレム。


 工場前広場を舞台にした超重量級バトルは、ドワーフたちの圧倒的勝利で幕を閉じた。


 ドワーフの意地と、晶のオーバーテクノロジーが、教会の秘密兵器をただの瓦礫の山へと変えたのである。


「へっ、ざまぁみろ。……空になった魔導バッテリー代と修理代、高くつくぜ?」


 ガンドが葉巻っぽい形のチョコバーを(かじ)りながら捨て台詞を吐く


(パワーは悪くないが、駆動時間の短さが課題だな……)


 頼もしすぎる援軍の登場に、ボルスは安堵のため息をつくと同時に、苦笑いを浮かべた。


「まったく、社長の周りにはとんでもねぇ奴しかいねぇな……」


 地上での防衛戦は、全エネルギーを使い切った『重機軍団』の活躍により、首の皮一枚で繋がった。


 だが、敵の攻撃がこれで終わるとは思えない。


 そして何より、肝心の「社長」の魂は、まだ戻ってきていないのだ。


 ボルスは空を見上げる。


 土煙の向こう、鉛色の空の彼方へ。


(頼むぜ、ルナ……。こっちはド派手にやってるが、そろそろ限界だ。……早く帰ってきてくれ!)


 その頃、冥界の最深部近く。


 ルナたち『チーム人外』もまた、次の難関――灼熱の『焦熱地獄』をとんでもない方法で攻略を開始しようとしていた。


 そしてさらに、救出されるべき「当の本人」はと言うと……。


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