究極の「ざまぁ」
正直なところ、元夫と義姉に会うまでは自信がなかった。逃げだしたくなったり、怯えてしまうかもしれないと怖れていた。
それでも、自分自身の為、ヴィクターの為、ウォーターズ帝国の多くの人たちの為に立ち向かわなければならないと自分自身を叱咤し、会うことにしたのだ。
過去の自分と向き合い、捨て去る。
そして、前を向いて信じるのだ。
未来を、それからヴィクターのことを。
このとき、彼のことが好きなのだとあらためて自覚した。
いいえ。彼を愛しているのだと痛感した。
「心配はいらぬ。貴様らが愛してやまぬウォーターズ帝国の民は、わが名において救う。わが愛しのサエ、奴らをどうしたい? おれは、愛するきみの希望通りにするつもりだ」
ヴィクターが初めて人前でわたしの名を呼んでくれた。
そして、いまのところ彼の「真実の声」は流れ込んでこない。
ということは、いままで彼が元夫と義姉に告げたすべての言葉は、演技ではなく本心ということになる。
「おいっ、おまえっ! 正妃に戻してやる。だから、おれを助けろ。そして、皇都に戻るんだ。こんな欲深レディ、ここに捨てて行けばいい。そうだ。生贄にすればいい。そうすれば、そこにいる国王はおまえのかわりに愛するはずだ」
元夫はいままで口汚く罵り合いをしていたのに、彼らの生殺与奪の権がわたしに与えられたことを知った途端、つぎはわたしに言ってきた。
というよりか、エラそうに命じてきた。
すでに帰る場所はなく、すべてを失った元夫が、である。
「なにを言っているのよ、このクズ。そもそもあんたが悪いのよ。あんたがクズ皇帝だからでしょう? サエ。あなた、わたしの妹でしょう? わたしだけでも助けなさい。お父様とお母様もそれを望んでいるわ」
そして、義姉もまたエラそうに命じてきた。
「ヴィクター様、お気遣いありがとうございます。では、申し上げます。その前に、お義姉様。お父様とお義母様は、すでに反乱軍に捕まって処刑を待つばかりだということを知らせておきますね。彼らは、反乱軍にあなたたちを売った後に捕まりました。ですから、お義姉様。一刻もはやく戻ってお父様とお母様に会うといいですわ」
いっきに告げた。
こちらを睨み上げている義姉と元夫の必死の形相に負けてしまわないうちに、彼らのすさまじいまでの悪意に怯まないうちに。
いったん言葉を切ってから、そうとはわからないように深呼吸した。
それは、キャロルに教えてもらったマインドコントロール法のひとつである。
「ヴィクター様、彼らを反乱軍の使者に引き渡してください。そして、ウォーターズ帝国の人々に裁いてもらって下さい」
勇気を振り絞り、元夫と義姉と視線を合わせた。自分ではたっぷりなときをかけて。それから、ヴィクターのルビー色の瞳へと視線を上げた。
「サエ、おれの最愛の人よ。承知した。その二人を、ウォーターズ帝国の反乱軍の使者に引き渡せ」
「はっ!」
兵士たちは、元夫と義姉を拘束し直した。そして、二人を謁見の間からひきずり出した。
「命だけは助けろ」
「わたしは関係ないわ。サエッ、助けなさい」
彼らは、この期に及んでまだエラそうに命じている。
彼らのみっともない声がきこえなくなるまで、「ざまぁみろ」を心ゆくまで味わった。
ヴィクターのやさしくてあたたかい胸に抱かれて。




