元夫と義姉に会う
兵士たちは、玉座の階段下で二人を跪かせた。屈強な兵士たちは、彼らの後頭部をおさえて顔を上げることが出来ないようにしている。
「貴様らがウォーターズ帝国の皇帝と皇妃か? ああ、答えなくていい。言ってみただけだ。おれも忙しいのでな。手短にすませよう。二度に渡るウォーターズ帝国の侵略行為、さすがに許すはずがないよな?」
「いや、侵略ではない……」
ほとんどうつ伏せ状態の元夫の声は、みっともないほど震えていた。
その声をきいた瞬間、またしても「ざまぁみろ」と意地悪なことを思ってしまった。
「だまれ。あれは侵略行為だ。すくなくとも、わがオーディントン国ではそう受け取る。一度は許したが、二度目は許さぬ。しかも、二度目はルビーを奪えと命じていたそうだな。貴様らは、おれのことを『盗賊の末裔』だとか『野獣の王』だとか呼んで蔑んでいるが、貴様の方がよほど悪党だ。ぜったいに見過ごさぬ。ましてや許すことなどな。貴様の軍や官僚や貴族たちは、おれに恭順を誓っている。元皇帝である貴様にではなく、だ」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ。違う。おれは、ひとえに帝国民の為に、飢饉や災害で苦しむ帝国民の為に……」
「だまれと言ったはずだが? 貴様の戯言などききたくはない。すでに貴様と貴様の正妃の運命は決している。それ以上恥をさらさぬことだ。ああ、そうだ。クズきわまりない貴様にひとつだけ礼を言っておこう。最愛の妻を、最高のレディを生贄として贈ってくれたことだ」
ヴィクターは、そのタイミングで立ち上がった。そして、筋肉質な左腕をわたしの腰にまわした。
彼の分厚い胸板に自然と引き寄せられる。
眼下では、兵士たちが元夫と義姉の面を上げさせたところだった。
「……!」
「……!」
元夫と義姉の瞼が大きく見開かれたのが、ここからでもよく見える。
二人とも唖然としている。
なにか言おうとして口をパクパクしているけれど、二人の口から出てくる言葉はなかった。
「素晴らしい生贄だ。わが国では、生贄に差し出されたレディはなにより大切にする。妻としてな。おれは、彼女のことが愛おしすぎてすっかり参ってしまっている。自分でもどうしようもないくらいにな。いまのおれは、彼女の為に生きている。彼女こそすべて。よって、彼女を蔑み虐げ苦しめてきた貴様らのことは、国王として彼女を心から愛する者としてぜったいに許さぬ」
「バカなことを言わないで。なにが参っているよ。なにが『愛おしい』よ。サエの聖なる力を利用したいだけでしょう? こんなことになったのも、その性悪女が小細工したからよ」
元夫より義姉の方がはるかに強かった。
彼女は、ボロ雑巾のような髪を顔面にまとわりつかせつつ全力で叫んだ。
(というか、もしかして彼女もわたしの力のことを知っているわけ?)
なるほど。だから、ことあるごとにわたしを無能扱いし、そうだと思い込ませたのね。
そんなくだらない策にまんまとだまされ、洗脳されたわたしが間抜けだった。
「ど、どういうことだ?」
元夫は混乱しているみたい。頬がこけて真っ黒な顔を、義姉に向けている。
「サエの力よ。帝国を、皇族を護る力。帝国は、いままでずっと彼女の力で護られ繫栄していたの。それがなくなったのは、あんたがサエを追いだしたからよ」
「なんだと? 『あいつを追いだしてわたしを正妃にして』、と言ったのはおまえだろう?」
「知らないわよ。実行に移したのはあんたよ」
「この欲深レディッ! おまえだ、おまえのせいだっ!」
なんてこと。みっともなく言い争いを始めたわ。
三度目の「ざまぁみろ」を実感する。
「おお、そうだ。特別に教えておいてやろう。貴様の正妃は、彼女とは逆に災いを呼ぶ力を持っている」
ヴィクターは、そう告げてから大笑いした。
腰にまわされている彼の腕は、やさしくてあたたかい。
それは、勇気と力を与えてくれる。
だからこそ、これまでわたしを虐げ蔑んできた相手を前にしても堂々と見おろしていられる。




