とんでもないことになってしまった
「ビアトリスさん、アイリーンさん。よろしくお願いします。あなた方を失望させない程度には、抵抗出来ればと思います」
ちゃんと彼女たちに応えないと失礼に当たる。
だから、いま思いついた抱負を宣言しておいた。
すると二人は長い睫毛の目を見開き、同時に笑った。それから、背を向けて出て行った。
「あの、なにか?」
彼女たちが出て行くと、ヴィクターたちがこちらを見ていることに気がついた。
「いや、なんでもない。きみを見たら不都合でもあるのか?」
「いいえ、ヴィクター様。そのようなことはけっしてありません」
不機嫌そうなヴィクターに慌てて言った。
『うわああああっ! カッコよかった。いまの彼女の啖呵、最高にクールだった。ギャップがすごすぎて身震いしてしまった。もっとこのギャップを見てみたい。姉上に鍛えてもらったら、ギャップだらけになるかもしれないぞ』
いつものように彼の「真実の声」が流れ込んでくる。
「姉上、おれはあなたを呼んだ覚えはないのだが?」
「優秀な侍女が必要なんでしょう? そのおちびちゃんの世話をする者を」
「ええ。その侍女はどこに? 姉上みずからが選んでくれたとか?」
「そのような者、いるわけないでしょう? だから、わたしが侍女だと言っているのよ。わたしが彼女の世話をするの」
「姉上が? 冗談はやめてくれ。世話というのは、身の回りの世話のことだ。彼女が朝起きてから夜寝るまでの生活をするサポートをするのだ。姉上は、自分自身のことだって適当にすませているだろう? その姉上が、他人の世話が出来るはずがない」
「バカな弟ね。なんでも適当でいいのよ。王宮にいる侍女たちだって適当にやっているでしょう。わたしは、わたしの得意な方法で彼女の生活をサポートするわ」
「あの……」
口論の最中だけど、割り込まずにはいられなかった。
是非とも伝えたいことがある。
「ヴィクター様、お話しの最中に申し訳ありません。先日もお話しした通り、わたしは自分自身のことは自分で出来ます。いまもそうしていますので。王女殿下に生活面でご迷惑おかけすることは、おそらくですがないと思います」
「おいおい。おれは、客人にこれ以上不便な思いをさせるつもりはないぞ」
ビィクターに即座に断られてしまった。もちろん、口に出してはだけど。
『彼女は、なんてやさしいのだ。さすがすぎる。レディ力が高すぎる。こんなやさしく気遣いのあるレディは初めてだ。もっとはやく出会えていればよかったのに』
どうやら彼の「真実の声」は、賛成してくれているみたい。
「ヴィクター様、お願いします。わたし、強くなりたいのです。王女殿下にいろいろ教えてもらい、そのお返しに王女殿下の生活面での手助けをする。これでいかがでしょうか?」
「ふんっ! おちびちゃんに手助けしてもらわなくっても、わたしは適当に生活出来るわよ」
王女が言いきった。口に出しては、だけれども。
『まぁぁぁぁっ! おちびちゃん、可愛いじゃない。ほんとうのレディって、こんなにもやさしいものなのね。いいわよいいわよ。いくらでも世話を焼いてちょうだい。そのかわり、わたしがあなたを最強のレディにしてあげるから』
どうやら彼女の「真実の声」は、同意してくれているみたい。
「きみがそこまで言うのならそうすればいい」
ヴィクターが了承してくれた。
「弟が言うのなら仕方がないわね」
そして、王女も。
「キャロライン・ホワイトウエイよ。愛称はキャロル。王女殿下なんて呼ばないで。軟弱きわまりないわ。キャロルと呼んでちょうだい」
王女、いえ、キャロルが手を差し出してきた。
その手もまた、ヴィクター同様大きくて分厚い。
その手を握ると、ヴィクター同様やさしくてあたたかい。そして、力がみなぎっているのを感じる。
「サエです。よろしくお願いします、キャロル様」
がっしりと握手を交わした。
(なにかジャンルが違ってきてはしないかしら?)
ふと思ったけれど、まぁいいわよね。
「双子の弟の為にも、あなたを鍛え上げるわよ」
「はい? 双子?」
「そうよ。二卵性なの」
「はぁ……」
この国にやって来てから、双子や三つ子などを見た。
今日初めて、二卵性双生児に出会った。
驚きすぎるのも飽きてきた気がする。
いずれにせよ、わたしがとんでもないことになる運命であることにかわりはない。




