国王が飛んで来た
そのあとが大変だった。
ヴィクターが飛んできた。彼は巨躯にもかかわらず、居住区域の廊下を文字通り飛ぶようにしてやって来た。
そのヴィクターに、公爵令嬢たちが噛みついた。こちらも、文字通り噛みついたといっていいほどの勢いで責めた。
わたしのこと、それから自分たちというレディがいながら駐屯地から王都に戻ってこないこと。
ヴィクターは、双子姉妹に言葉を返さなかった。沈黙を守り通した。というよりか、返せなかったのかもしれない。
すると、双子姉妹はますます饒舌になった。はやい話が、調子にのった。
古からの約束の為、かならずや自分たちのどちらかが正妃に、どちらかが側妃にしなければならないということ。その為にもわたしを脅威とみなし、排除するということ。それが、彼女たちの生家レッドグレイブ家の令嬢の務めだということ。
以上を留意してもらい、けっして邪魔だてはしないでいただきたい。
双子姉妹は、彼女たちの主張をそう締めくくった。
彼女たちは、ヴィクターにというよりかはわたしに挑戦状を叩きつけたといって過言ではない。
即座に反応したのは、パーシーとチャーリーだった。
彼らは、口に出しては「無礼にもほどがある」、「陛下にとってレディは特別な存在」、そう言って双子姉妹を非難した。が、彼らの「真の声」は、双子姉妹を愛しているからこそやめさせたがっている。当然、双子姉妹は口に出しては彼らに反論する。が、彼女たちの「真の声」はパーシーとチャーリーを愛し、もろもろの無茶苦茶なことをやめたがっている。
その双子どうしの口論に終止符を打ったのは、ヴィクターだった。
「レディはおれの客人だ。きみらがここに居座り、好き勝手するのは自由だ。だが、客人になにかあったら、けっして許さん。そのことだけは肝に銘じておけ。もっとも、客人に指一本触れることは出来んだろうがな。おれがついているのだから」
彼は、たったそれだけ忠告した。
ゾッとするほど低く鋭いその忠告は、双子姉妹の肝を十二分に冷やしたに違いない。
「あなたがついている必要などない。なぜなら、わたしがこのちっちゃくてひ弱な娘を鍛えるのだから」
そしてついに、王女が口を出してきた。
どうやらわたしは、強くならないといけないらしい。猛特訓やすさまじい試練に耐えなければならないらしい。
ここで双子姉妹は執務室から退出した。というよりか、ヴィクターと王女が彼女たちを執務室から追いだしてしまった。
「あの、わたしはサエです。サエ・アンダーソンです」
彼女たちが扉から出ようとしたタイミングで、自信に満ち溢れたふたつの背中に名乗った。
どうせ無視されるだろうと思いつつ。
たとえ彼女たちがわたしに危害をくわえようとしているのだとしても、一応自己紹介はしておきたかった。
が、予想に反して彼女たちはいっせいに振り返った。それから、こちらに戻ってきた。
「ちんちくりん。わたしは、ビアトリス・レッドグレイブ。あなたを血祭りにあげるつもりだから忘れないで」
「ちっちゃいの。わたしは、アイリーン・レッドグレイブ。ビアトリスの妹よ。あなたに消えてもらうつもりだから忘れないで」
彼女たちも自己紹介をしてくれた。しかも抱負まで打ち明けてくれた。さらには、手を差し出してきた。
彼女たちと握手をしつつ、内心で驚きを隠せなかった。
彼女たちが律儀に自己紹介してくれたことが、ほんとうに意外だった。




