王女殿下
「小娘たち、どきなさい」
彼女は吠えた。そのような動作もまた、だれかを彷彿とさせる。
双子の公爵令嬢たちは、慌てて飛びのいて道を開けた。
あらたなレディは、わたしの前までやって来てこちらを見おろした。
(うわぁ、大きい)
見上げるこの動作や感じる思いもまた、だれかに抱いたものとほとんど同じである。
「ほんと、小さくてひ弱そうね。小指一本でぶっ飛ばせそうだわ。あるいは、息の根を止めることが出来そう。こんなので務まるのかしらね?」
王女殿下と呼ばれている彼女は、腰に手を当てこちらを見おろしながら呆れ返っている。
「王女殿下、そうですよ。そんなちんちくりんに正妃が務まるわけがありません。痛めつけて放り出せば……」
「王女殿下、まるで小動物です。そんな小動物は、足で踏みつけてほっぽりだしてしまえば……」
双子の公爵令嬢たちが同時に言いだした。が、彼女たちは最後まで言うことは出来なかった。
「小娘たち、だまりなさい。この娘は、わたしの獲物よ。あなたたちのじゃない。わたしが好きなようにするわ」
(ひえええええっ)
彼女にギロリと睨まれてしまった。
(こ、怖すぎる)
「まったくもう。侍女の役目をおしつけてくるから、わざわざ来てあげたものを。まさか、こんなちっぽけでひ弱な娘を鍛えることになるなんてね。国王の実の姉も苦労が絶えないわ」
王女殿下は、腰に手をあてたまま溜息をついた。
(って、どういうことなの? ヴィクターの実の姉がどうしてここに?)
訳が分からないけれど、彼女がヴィクターの実の姉というところは驚きはしなかった。
なぜなら、ヴィクターと外見も雰囲気も似ているから。
とはいえ、外見に関してはめちゃくちゃ大きいというところが似ているだけみたい。
「王女殿下、侍女の意味をお分かりでしょうか?」
「王女殿下、侍女の役割をはき違えておいででは?」
パーシーとチャーリーが恐る恐るといったていで尋ねた。
(わたしもそこは同意だわ)
どうして王女みずからがわざわざ侍女をしにここへ?
そもそも、王女は侍女ではない。当然のことだけど。
「ヒヨッコたち、だまりなさい。そんなこと、わかっているにきまっているでしょう? 侍女として、この小娘の世話をすればいいだけのことよ。国王の実の姉のわたしが、こんなちっぽけでひ弱な小娘の世話のひとつも出来ないというの?」
パーシーとチャーリーは、王女に睨みつけられた上に怒鳴られ、黙り込んでしまった。
(わたし、どうなってしまうの?)
いままでにない展開に困惑しかない。
『キャーッ! 彼女、なんて可愛いの? ギュッと抱きしめたいわ。こんなに小さくて可愛い娘がいるなんて、世の中捨てたものじゃないわね。レディ嫌いの弟が参ってしまうわけよ。だったら、姉として一肌脱がないと。この娘をなんとしてでも妃にするのよ。わたしが守り抜くだけでなく、このオーディントン国一のレディ戦士に育てるのよ。最強の戦士である『野獣の王』の伴侶として、ね。ああ、どうしましょう。いまから『野獣の妃』の誕生が楽しみでならないわ』
困惑していると、王女の「真実の声」が流れ込んできた。
(嘘、でしょう? わたし、いったいどうなってしまうの?)
神はわたしから永遠に自由を奪っただけでは飽き足らず、絶望的な試練を与えたみたい。
(神よ、わたしはあなたになにかしましたか?)
心の中で天を仰ぎ、神にそう問わずにはいられなかった。




