さらなるレディが……
『ダメだダメだ。ビアトリスに王座簒奪などという危険なことをさせてたまるか。彼女には、愛とやすらぎこそが似合っている。許されるならば、そんなくだらない野心やしがらみを捨て、二人で静かなところで愛し合いたい』
『アイリーンにそんな殺意や野心は似合わない。公爵令嬢にさえ生まれなかったら、穏やかで愛に満ちた一生をすごせるはずだったのに。いまからすぐにでもおれがそうさせてやりたい。このまま手を取り、逃げだしたい。そして、彼女に愛され、彼女を愛してすごしたい』
パーシーとチャーリーの赤面ものの「真実の声」が流れこんできた。
『ああ、なんて不幸なの。パーシーはすぐ目の前だというのに、陛下みたいな野獣を好いているふりをしなければならないなんて。しかも、その座を狙っているという悪女を装うなんて……。レッドグレイブ公爵家に生まれてきたことを、いまほど悔やむことはないわ』
『わたしたち、なんてかわいそうなの。レッドグレイブ公爵家の娘にさえ生まれてこなければ、陛下のような野獣の妃の座を狙うふりをしなくてもよかったのに。野心満々の大悪女と呼ばれることもなかったのに。ああ、ふつうに生まれていれば、チャーリーと添い遂げられたかもしれないのに。彼と愛し合い、しあわせな家庭を築き上げられたかもしれないのに』
それから、彼女たちの「真実の声」も流れ込んできた。
(なるほど。彼女たちは、野心満々の家柄の出身なのね。公爵家の子女は、国王に嫁ぐことが約束されているといったところかしら。彼らの考え方により、妃になったら夫である国王の命をみずから狙い、奪うことが許される。彼女たちは、ほんとうの気持ちを封印して家の為に必死に演じているわけね)
それを考えたら、気の毒になってくる。
そして、自分と照らし合わせてしまう。
わたしもまた、そうだったから。物心ついたときから、皇帝の妃になるべくがんじがらめにされていたから。
それを考えると、彼女たちに親近感がわいてくる。
「このちんちくりんが邪魔さえしなければ、わたしたちの計画はスムーズに進むはずだったのよ」
「そうよ。このちっちゃい傷物レディが邪魔なのよ。だったら? 排除するしかないわよね?」
彼女たちは、体ごとわたしの方に向き直った。
二人の美しい顔には、いまや悪意と敵意がみなぎりすぎている。
(同情なんてするものですか。わたしをどうにかするつもりだなんてどうかしているわ)
先程までの共感は、一瞬にして消え去ってしまった。
正直、ショックすぎる。
しかもいまのは本音のようで、「真の声」がいっこうに流れ込んでこない。
「いいかげんになさいっ!」
そのとき、彼女たちとパーシーとチャーリーの向こう側にあらたなだれかが現れた。
そのだれかは、小気味よいヒールの音を響かせつつこちらに向って来る。
「小娘たち、舐めた口をきくのはたいがいにすることね」
凛とした一喝に、眼前の双子のレディたちが目に見えて怯え始めた。
ついに現れただれかは、背が高いだけでなく出るところはおもいっきり出ている。しかも、顔は「絶世の」を超えるほど美しいレディである。
「王女殿下」
「王女殿下」
パーシーとチャーリーだけでなく、彼女たちも同時につぶやいた。
王女殿下と呼ばれたレディは、控えめに表現してもカッコよすぎる。
彼女もまた乗馬服姿。その地味な色とデザインのそれは、大柄な彼女によく似合っている。
一瞬、どこかで見たことがあると感じた。というよりか、だれかに似ていると思った。
外見、それから醸し出す雰囲気も。




