不思議に思っていること
そういえば、オーディントン国のこの駐屯地に来てヴィクターに初めて会った際、「居住区から出るな」というようなことを彼から命じられた。
が、それもほとんどすぐ忘れてしまった。というよりか、パーシーとチャーリーが古城の居住区内だけでなく、駐屯地内のすみずみまで案内してくれたし、近くの町や村や山や丘や谷や湖や川や森や林やといった様々なところに連れて行ってくれた。わたしが生贄としてここにやって来たそもそもの原因であるルビーが産出される鉱山にも案内してもらった。
というわけで、わたしはどこにでも行っている。もっとも、かならず親衛隊の隊員などだれかが付き添っているけれど。
ここにやって来てどのくらい経ったのかしら?
一日一日が充実しすぎている。ときがあっという間にすぎていくので、時間の感覚がすっかりなくなってしまっている。
この日、お昼からクッキーを焼いた。プレーンとチョコチップとレーズンとクルミの四種類である。
それを持って厩舎に向った。
今日は、パーシーとチャーリーが付き添ってくれている。ここのところ、彼らは忙しいようである。だから、付き合ってくれるのはひさしぶりである。
最近、乗馬を始めた。
以前、町に行った際にヴィクターに会った。彼の愛馬の黒い巨大馬のつぶらな瞳が忘れられず、何度か厩舎を訪れた。そこでヴィクターの愛馬「ブラック・ビースト」と再会した。なでさせてもらっている内に、厩務員たちが乗馬をしてみないかと勧めてくれた。パーシーとチャーリーが賛成してくれたので、教えてもらうことにした。
「ブラック・ビースト」が乗せてくれると言ってくれた。動物の「真の声」まで心に流れ込んでくるのは驚きだった。
というわけで、彼に乗せてもらい、厩務員や調教師たちから乗馬のレクチャーを受けている。
今日もレクチャーを受けるのである。
クッキーは、厩務員や調教師たちへの差し入れというわけ。
「ずっと不思議に思っているのですが……」
厩舎に向いつつ、ずっと気になっていることをふと尋ねたくなった。
パーシーはわたしの右側を、チャーリーはわたしの左側を歩いている。
「ヴィクター様は、ここにずっといて大丈夫なのですか? というよりか、ヴィクター様は将軍である以前に国王なのに、王都にいるよりいろいろな駐屯地にいることの方が多いのですよね? 将軍としてはそれは当たり前かもしれませんが、国王としてはいろいろ不都合なのではないでしょうか?」
国王が不在なら、当然宰相など官僚が幅をきかせることになる。野心的な人が、いつなんどきクーデター等よからぬ考えや野心を抱いたりするだろうし、それを実行に移すかもしれない。
ヴィクターが王都から遠く離れている期間が長ければ長いほど、そういう人たちが有利になるはずなのに……。
そのことがずっと不思議だった。
王都から遠く離れたこの駐屯地で、呑気にというほどではないにしろ、安穏とすごしていていいのかしら?
そのことを尋ねたいと思いつつ、ずっとそのタイミングがなかった。
というか、ついつい忘れてしまっていた。今日は、めずらしく覚えていた。だから、やっと尋ねることが出来た。




