彼女の心証をよくしたかな?
「いえ、あの、ヴィクター様。違います。誤解なのです。人員を割いていただかなくて結構ですと言いたいところなのですが、やはりなにかと不便です。それに、同性がいた方が心強いです。ちょっとしたことでも、ヴィクター様やパーシーやチャーリーに、というよりか男性には相談しにくいことがありますので」
どう、いまのごまかし方?
ヴィクターの「真の声」につけこんで、ではなくって「真の声」にそいつつ、それでいて彼の自尊心をくすぐりつつごまかしてみた。
「ふんっ! ならば、最初からそう言えばよかったのだ。わかりにくい言い方をせずにな」
「申し訳ありません、ヴィクター様」
頭を下げておく。
『よかったー! 彼女に拒否られたのでなくてほんとうによかった。これで、少しは点数を稼げたかな? おれの見てくれは野獣だが、やさしいところや気遣いがあると思ってくれたかな?』
ヴィクターの「真の声」が流れ込んできて、ホッとした。
「へー、いいところがあるのですね、陛下」
「まさかの気遣い、ですか?」
「う、うるさい。先程、おれが言ったことをきいていなかったのか?」
「ええ、きいていましたよ。なぁ、チャーリー?」
「ええ、きいていましたよ。なぁ、パーシー?」
チャーリーとパーシーのヴィクターいじりはあいかわらずである。
(この人たち、ほんとうに大陸一強いと怖れられているオーディントン国軍の将軍と参謀と副官なの? 謎だらけでいろいろな意味で恐怖の対象になっている『野獣王』とその側近たちなの?)
彼らのやりとりを見ていると、とてもではないけれどそうは見えないし思えない。
「それで、陛下。その侍女というのは? この辺りの町のレディを雇うのですか?」
「パーシー、違う。まがりなりにも、彼女は一応おれの客人だぞ。ウォーターズ帝国の皇帝の元妻だったのだろう? いくら傷物とはいえ、そのようなレディにはちゃんとマナーを身につけている侍女をつけるべきだ。ゆえに、適当な人材を送るよう王都に使いを出した」
「どうせここにいるのです。最低限のことが出来さえすればいいのではないですか?」
「パーシーの言う通りですよ。王都に戻るのでしたら、それなりの体裁を整える必要があるでしょうけど。たとえば、婚儀の為に王都に戻るとかでしたら」
「ああ、なるほど。チャーリー、それだよ、それ。陛下は、すでにレディとの婚儀を見据えているわけだ」
パーシーとチャーリーのヴィクターいじりが止まらない。
二人ともニヤニヤ笑っていてとても楽しそう。
「そ、そ、そんなわけがあるか? ぜったいにない。ああ、ぜったいにな。用件は終わりだ。三人とも出て行け。さっさと出て行ってくれ」
ヴィクターの髭面が真っ赤になっている。それが顔いっぱいの髭なのにはっきりわかる。
『婚儀? 彼女と婚儀だと? ど、どうしよう。そんなふうに考えたことはなかったぞ。だが、そ、そうだな。今回の件で彼女の心証をよくしたのだったら、婚儀に近づけたかもしれん。いや、やはりそれはまだはやいか? しかし、婚儀。婚儀か。いい響きだ。彼女、純白のドレスが似合いすぎるだろうな? いつにも増して可愛いに違いない。そんな姿を見せられたら、おれは他の男どもから彼女を隠さなければならん。よって、新郎の役目どころの騒ぎじゃなくなるぞ』
ヴィクターの妄想が止まらない。暴走しまくっている。
彼の妄想っぷりに呆れ返りながら、パーシーとチャーリーとともに執務室をあとにした。




