侍女を呼び寄せるですって?
「チャーリー、わかったわかった」
ヴィクターは、不機嫌そうに大きくて分厚い手をヒラヒラさせた。
「レディ、座ってくれ。心外にも理不尽な誹謗中傷を投げつけられたからな。しかも腹心の部下に、だ。ゆえに、さっさと用件をすませてしまう」
大きくて分厚い手で長椅子を示されたので、長椅子に近づいた。
執務机に向いている方の長椅子に座っているパーシーとチャーリーが立ち上がってくれたので、そこに座った。
「手伝いのレディのことだ。つまり、侍女的役割のレディのことだ」
「はい?」
一瞬、ヴィクターの口から唐突に出てきた言葉が理解出来なかった。
「ここは、知っての通り駐屯地だ。あいにく、ここにはレディがいない。他の駐屯地にはレディの兵士や士官がいるが、ここにはひとりもいない。だから、身の回りの世話をするレディが必要だ」
ああ、なるほど。
納得である。
(だけど、正直なところ必要ないのだけれど。自分のことは自分で出来るし、いまだってそれで不便なくすごしているから。それに、レディどうしの煩わしさがないから気がラクなのよね)
皇宮では、侍女たちはだれかに飼われていた。
ダメね。飼われていたなどという表現は。
雇われて、という方が適切かしら?
とにかく、みんな正規の雇い主である皇帝以外のだれかにこっそり雇われていた。彼女たちは情報を収集したり、ときには小細工をしたりしていた。
つまり、だれも信じることが出来なかった。油断がならなかった。
つねに言動に注意しなければならなかった。それこそ、寝言も言えなかった。
そんな思いはもうたくさん。
「ヴィクター様、お気遣いありがとうございます。ですが、わたしは自分のことは自分で出来ます。実際、いまもやっていますので。ですから、わたしなどの為に貴重な人員を割いていただかなくて結構……」
「なんだと? たしかに、きみは不必要な存在だ。しかし、それでも客人は客人。『じつは、ずっと不便な生活を送らされていた』などと、あとであらゆる人間にささやかれてみろ。将軍、ひいては国王であるおれの配慮が足りなかったと非難される。それは、迷惑この上ない」
ヴィクターの不興を買ってしまった。
『ああ、なんてことだ。せっかく優秀な侍女を王都から呼び寄せたというのに、彼女に拒否されてしまった。彼女が不便な思いをしているだろうし、なにより男ばかりで同性がいなくて寂しい思いをしていると考えに考え抜いたのに……。やはり、彼女におれの想いは通じないのか? おれの真心は伝わらないのか?』
直後、彼の「真の声」が流れ込んできた。
(ご、ごめんなさい)
ヴィクターのあまりの嘆きように罪悪感に苛まれたのはいうまでもない。
彼の悲しみを無視するほど、わたしは悪女ではない。




