焼き立てのマドレーヌ
「わおっ! 美味そう」
「レディ、美味そうですね。今日はマドレーヌですか? レシピがだんだん増えていきますね」
パーシーとチャーリーは、いつもお世辞を言ってくれる。
でも、そのあとに彼らの「真実の声」が心に流れ込んでこないので、言葉通り思ってくれているみたい。
「ええ。料理長に教えてもらってなんとか。それに、スイーツに関しては町のカフェのパティシエにこっそり教えてもらっています。ですので、みなさんのお蔭でなんとか体裁は整えられるわけです」
そう。料理長のシドニーが教えてくれるだけでなく、町のカフェのパティシエにもコツというか秘伝というか、こっそり教えてもらっている。それをシドニーと試しているのである。
というわけで、わたしの腕前ではない。あくまでも、町のカフェのパティシエとシドニーのお蔭であるこ。
「ほんと美味そうですよね」
「においがたまらない」
二人は、焼き上がったばかりの天板上のマドレーヌの前から動こうとしない。
「パーシー、チャーリー、味見をどうぞ。そうだわ。せっかくだから、ヴィクター様にも持って行きましょう」
「では、その前に毒見を」
「おいっ、チャーリー。毒見だなんて失礼なことを言うな。ただのつまみ食いじゃないか」
「パーシー、そうだった。レディ、すみません。失言でした。だけど、陛下より前に食うのは悪いかな?」
「いいのですよ、お二人とも。毒見と称して食べてみて下さい。大義名分があれば食べやすいでしょう? もちろん、毒なんて入っていませんけどね」
勧めると、二人はうれしそうに天板上のマドレーヌを手に取った。
「熱いっ」
「熱っ」
「当然だ。焼き立てなんだからな」
マドレーヌをつかんだ手をひっこめたパーシーとチャーリーに、シドニーが冷静に指摘した。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
うっかりしていた。
「大丈夫です。焼き立てのマドレーヌは初めて食います」
「たいてい時間が経ってからのを食いますからね」
二人はあらためてマドレーヌを手に取り、「フーフー」してから頬張った。
「うん。美味い。これは、町のカフェのにひけはとりませんよ」
「ああ、パーシーの言う通りです。そのまんま、いいや、生地のなめらかさはこっちの方がいいかもしれない。おれは、こっちのマドレーヌの方が好きですね」
「パーシー、チャーリー、ありがとうございます。お世辞でもうれしいです。ほんとうにカフェのパティシエとシドニーさんのお蔭です」
他人をよろこばせることなんてそうそう出来ることではない。
パーシーとチャーリーのうれしそうな笑顔を見て、しあわせを噛みしめる。
(そうだわ。ここから放り出されることになったら、料理やスイーツを作って生計を立てられないかしら?
どこかの町や村の食堂やカフェで働けたら最高よね)
そう簡単にはいかないことはわかっている。しかし、そのときの為にいまからしっかり勉強と経験を積んでおくのはマイナスにはならない。願いがかなうかどうかは別にしても、備えはちゃんとしておくべきだ。
(もっとがんばろう。シドニーには迷惑をかけてしまうけれど、彼は教えるのがうまいし、機嫌よく教えてくれる。軍の料理人たちと一緒に学ばせてもらおう)
あらためて決意する。
国王に数個とカモミールティーを持って行くことにした。残りは、シドニーや親衛隊の隊員たち、自分用にとっておく。
そして、パーシーとチャーリーといっしょに国王の待つ執務室へ向かった。




