ここにやって来てほんとうによかった
「う……ん。美味しい。とっても美味しいです」
カカオのほのかな苦さと甘さがちょうどいい具合に混じり合っている。生地はしっとりしているかと思いきやサクサク感もある。ケーキ上と間に挟まれているホイップが彩りとアクセントを添えている。
これまでスイーツに興味を持たなかった。いいえ。持てなかった。
祖国の皇宮で、侍女たちは非番に帝都にスイーツを食べに行ったりしていたけれど、わたしは一度もない。皇宮の料理人たちは、スイーツを作ってくれるようなことはなかった。もちろん、わたしがお願いすれば作ってくれたかもしれないけれど、彼らに対して気を遣っていたのでお願いすることが出来なかった。
侍女たちが仕事中に雑談しているのをききながら、いろいろ想像するしかなかった。
「レモネードも美味しいです」
酸っぱさとほんのわずかな甘みがある。さっぱりするのもあり、あっという間に飲み干してしまった。
「わおっ! そんなによろこんでもらえてよかったです。ねぇ、陛下?」
「ほんと、よろこんでもらえてよかったです。レディ、ケーキもレモネードもおかわりしていただいていいですよ」
チャーリーとパーシーは、美しい顔に全力で笑みを浮かべている。
「ふんっ! ケーキやレモネードくらいでおおげさな」
そして、ヴィクターは腐っている。
『うわあああああああああああっ! こんなに可愛いのってあり得るのか? この世のものとは思えぬ可愛さだ。こんなに可愛い反応をすぐ側で見ることが出来て、神にでも魔物にでも感謝しまくるぞ。おれは、なんてしあわせ者なんだ。もっと見たい。彼女の可愛すぎる反応をもう一度見ることが出来たら、おれは、おれは……』
ヴィクターの「真実の声」。
もしかして、食べる姿なんて他人に見せたくないのだけれど、そんなふうに言ってくれすのならもう一個食べようかしら。
一個だけでは足りないし、もったいないわよね。
「では、もう一個いただいていいですか? レモネードもおかわりをお願いします」
「食いしん坊め」
お願いした瞬間、ヴィクターがつぶやいた。それで、彼はパーシーとチャーリーに睨まれてしまった。
『やった! もう一度あの可愛すぎる反応を見ることが出来るぞ』
ガッツポーズしそうな勢いのヴィクターの「真実の声」に、わたしも気合が入る。
驚くべきことに、チョコレートケーキを二個、ホイップとフルーツがてんこ盛りのワッフルを二個いただいた。レモネードは、三杯おかわりをした。
お腹がいっぱいになり、カフェを出て駐屯地へと戻った。
他国の国王ヴィクターのもとにやって来て、十日ほどすぎた。ときだけは、あっという間にすぎていく。
この駐屯地に女性の兵士はいないらしいので、男性ばかりの中すごしていてちっとも不便でも寂しいこともなく、自分でも驚くほど快適にすごさせてもらっている。
ヴィクターは、あいかわらず口では不愛想で無遠慮で冷たくて辛辣なことばかり言っている。しかし、彼の「真実の声」は、こんな見ず知らずのわたしのことを大切に想ってくれていることがよく伝わってくる。
パーシーやチャーリーを始め、駐屯地のみんなが国王とわたしをくっつけようと躍起になっている。当然、行動を起こすわけだけど、空回りばかりしているのが現状。
当事者のはずなのに、そんな空回りなみんなの行動を微笑ましく眺めている自分がいる。
正直なところ、ここにやって来てよかったと思う。
心の底から……。




