国王とカフェへ
「陛下、こんにちは」
「陛下、ごきげんよう」
町の人たちは、ヴィクターにふつうに挨拶をしている。
「やあっ! みな、元気そうでなにより。なにか困ったことはないか? 兵士たちが迷惑をかけていないといいのだが」
そして、ヴィクターは町の人たちに気さくに応じている。
驚きを禁じ得ない。
国王としてでも将軍としてでも、こんなに平民と距離が近いだなんて……。
元夫は、皇帝として民とこんなに近くに接することはいっさいなかった。
皇宮に呼びつける民といえば、有力者や金持ちばかり。
それ以外は、ただ税を収めたり働いたりするだけの存在としか認識していない。それどころか、同じ人間であると認めてさえいない節があった。正直なところ、そんな考えがイヤだった。いったいだれのお蔭で生活出来ているのか。贅を尽くすことが出来るのか。元夫は、それをわかっていないのだ。
「陛下、大丈夫ですよ。みなさんに外壁を直してもらいました」
「うちは、屋根の改修を手伝ってもらったんです」
町の人たちは、兵士たちが役に立っていることを口々に報告している。
「なにかあれば、いつでも言ってくれ」
「陛下、そうですね。なにかあるとすれば、陛下の怒鳴り声に驚いてしまうくらいでしょうか?」
だれかが笑いながら告げた。
「お、おれの声?」
「たしかに、いまの怒鳴り声は怖ろしかったですよ」
パーシーが追い打ちをかけると、この場にいる人たちがいっせいに笑い始めた。
いつの間にか、馬車道の向こうにいた近衛隊の隊長や隊員たちもやって来て一緒になって笑っている。
わたしも笑ってしまった。
こういう国王もいるのだ、ということを知った瞬間だった。
気がついたら、とんでもないことになっていた。
いま、わたしはカフェに来ている。
訂正。わたしたちは、である。
そこはいい。もともと買い物が終わったらカフェに来るつもりだったから。
パーシーとチャーリーと馭者をしてくれている親衛隊の隊員とわたしで。
だけど、いま人数が増えている。
カフェには、ちゃんとテラス席もある。祖国ウォーターズ帝国の帝都のどのカフェにも行ったことがないので知らなかったけれど、このような田舎の町のカフェにテラス席があるのはめずらしいのだとか。というよりか、カフェが存在することじたいめずらしいらしい。
たいていは食堂や飲み屋があればいい方らしいから。
ちなみに、この町にはカフェだけでなく食堂や飲み屋もあるし、バーもある。
街道沿いの町だからかもしれない。
それはともかく、いまのこの状況である。
なんとヴィクターと親衛隊の隊長や隊員たちまでついてきて、いっしょにいる。
パーシーとチャーリーが、気をきかせすぎてヴィクターを誘ったのだ。
みんなで散々笑った後、パーシーが「陛下、いっしょにカフェに行きませんか?」と言いだした。そして、チャーリーもまた「喉、かわいていますよね? この町のカフェは、レモネードがうまいことはご存知ですよね?」と、誘いだした。
「バカバカしい。なぜおれがいっしょに行かなければならないのだ?」
ヴィクターは、即座に拒否した。
「陛下、いいじゃないですか」
「そうですよ、陛下。そうだ。みんなで行きましょう。親衛隊の隊員たちも喉が乾いているでしょう。ねぇ、隊長?」
チャーリーに続いてパーシーが言い、親衛隊の隊長ロビンに目配せをした。
「ああ、喉がかわいてたまらん。レモネードが飲みたいなぁ」
ロビンの答えは、台本を読んでいるような棒読みだった。




