町でバッタリ? 国王に会う
町は、わたしが想像していたよりもずっと大きい。
とはいえ、祖国ウォーターズ帝国では帝都からほとんど出たことがなかった。というよりか、ほとんどが屋敷と皇宮の往復くらいで、帝都内でさえゆっくり訪れたことがない。だから、他と比較のしようがない。それでも、自分が想像していた町よりかは大きい。
見ると、駐屯地の兵士たちも大勢訪れている。軍服姿の人もいれば、そうでない人もいる。そうでない人がどうして見分けられるかというと、筋骨隆々の体格だからいやでもわかってしまう。
「兵士たちは、非番になるとこの町かもうひとつ西の方にある町に遊びに行くのです」
パーシーが教えてくれた。
「とはいえ、カフェや飲み屋くらいですけどね。それでも、駐屯地にいるよりか環境がかわっていいというわけです」
チャーリーも教えてくれた。
とりあえず、まずは服屋でシャツやスカートや夜着、それからちょっとしたドレスを揃えてもらった。そそのあと、靴屋で踵のほとんどない靴を購入してもらった。
あとは、駐屯地にある物を使えばいい。
必要な物があれば、いつでも町まで付き合ってくれるという。
衣服も靴も、「もっと買いましょう」とパーシーとチャーリーは言ってくれた。しかし、もう充分だと断った。
彼らは、田舎町の流行遅れのデザインだから、気に入らないと勘違いしているみたい。
デザインなどどうでもいい。
ありがたいことに、ここだと社交の為のドレスは必要がない。日常生活を送るの為には、動きやすい方がずっといい。だから、選ぶのも機能的で地味なデザインのものにした。というわけで、靴もヒールのないペタンコの履きやすい靴にしたのである。
彼らの勘違いを正そうとはしなかった。
デザインが気に入らないからという誤解がとけても、つぎは遠慮していると考えるに違いない。
もっとも、遠慮しているのはしているのだけれど。
それはともかく、必要な物は手に入った。既製品ばかりなので、包んで持たせてくれた。
わたしがどれにするかすぐ決めたこともあり、思いのほか早く目的をすませることが出来た。
「それでは、カフェに行こう」ということになり、靴屋の店主に見送られながら店を出た。
「陛下?」
「陛下?」
「ヴィクター様?」
その瞬間、パーシーとチャーリーと三人で同時につぶやいた。
馬車で待ってくれている近衛隊の隊員といっしょに、ヴィクターがいるのである。
彼は、わたしたちを黒馬の背からギロリと睨み下ろしている。
「って陛下、どうしてここに?」
「ふんっ! おれがここにいてはいかんのか、パーシー?」
「いえ、そういうわけでは」
「見てわからんのか? 視察だ、視察。いつものようにな」
ヴィクターは、大きくて分厚い手をひらめかせて向こう側を示した。
馬車道をはさんだ向こう側で、近衛隊の隊長と隊員たちが馬上こちらを見ている。
「ははん。視察は視察でも、町の視察ではなく彼女の視察でしょう?」
「なんだと、チャーリー」
チャーリーのつぶやきに、ヴィクターは噛みつかんばかりに怒鳴った。
『よかった。間に合ってよかった。『ブラック・ビースト』を急かしたのはかわいそうだったが、お蔭で彼女に会うことが出来た。ああ、彼女は今日も可愛いなぁ』
(ああ、なんてこと。今日もまた、ヴィクターの「真実の声」がよく心に流れ込んでくる)
今日もヴィクターの「真実の声」は、絶好調みたい。
そのとき、往来にいる町の人たちがこちらを見ていることに気がついた。




