町へ行く
町まで馬車に乗せてもらった。
この古城に連れてきてもらったときと同じ馬車を準備してくれようとしたけれど、そんなおおげさにしてもらう必要はない。だから、荷馬車にしてもらった。
親衛隊の隊員が馭者を務めてくれて、わたしはその横に座った。パーシーとチャーリーは、愛馬に乗っている。
駐屯地を出て、森の中を進んで行く。
ときおり鳥たちのさえずりや羽音がするだけで、それ以外の音はない。
訂正。わたしたちの喋り声と笑い声もする。それが、静かな森の中で異常なまでに響き渡る。
この森の中にいる動物たちは、騒々しい人間たちだと思っているに違いない。
「いまから行く町は、この辺りでは一番大きな町です。カフェもありますから、そこでスイーツでも食いましょう」
パーシーが提案してくれた。
「うれしいです。ですが、わたしに付き合ってくれて大丈夫なのですか?」
心配せずにはいられない。
パーシーとチャーリーは、本来の仕事が滞っているに違いない。
「いやいや、大丈夫です。どうかお気になさらず」
「パーシーの言う通りです。しばらくは演習もありませんしね。正直なところ、野郎どもの相手よりあなたといっしょにいる方がずっといい」
パーシーとチャーリーは、遠慮してそう言ってくれた。
「昨夜、ヴィクター様のご機嫌を損ねてしまって……」
ごつくて強面のヴィクターが、ふと脳裏に浮かんだ。どうしてかはわからないけれど。
「陛下が強情なだけです。というか、あなたのことを知ろうともせずにあれはないですよね」
「そうそう。チャーリーの言う通りです。頭ごなしにあんな態度をとるなんて、人としてどうかしているってレベルのひどさです」
チャーリーとパーシーは、同時に憤った。
馭者を務めてくれている親衛隊の隊員は、事情をよくわかっているみたい。
俯いてクスクス笑っている。
『ほんとうは違うのに。ほんとうは、陛下はあなたに興味津々なのになぁ。あなたのことを調べるよう命じるなどと、陛下にしたら奇蹟に近い』
『まさかこっそり彼女のことを調べるよう頼んでくるなんて……。この分では、陛下が彼女の尻に敷かれるのも時間の問題かな?』
パーシーとチャーリーの「真実の声」が、わたしの心に流れ込んできた。
(わたしのことを調べる?)
考えてみれば、ヴィクターが知っているわたしの情報は、元夫からもたらされたわずかなものだけ。しかも、そのほとんどがデタラメな情報である。
ちゃんと調べさせて当たり前かもしれない。
心の中で納得する。
(この『真実の声』は、すべてがきこえるわけではないのね)
納得してからふと思った。
どうやら、真実とは違うことを口にしたときだけ心に流れ込んでくるみたい。
「町が見えてきましたよ」
隣の隊員は、クスクス笑いすぎて真っ赤になっている。
彼が指さした方向を見ると、木々の間に家々が見えてきた。




