逃れられない呪縛
オレ達がAGESAの入会手続きを終えると、サークル事務局と称するリーダーの自宅へと案内された。リーダーの自宅は、大学から徒歩五分ほどの所に有る二階建てアパートの一階に在った。そこにはサークルの先輩達が待っていた。
「ようこそAGESAへ。僕がAGESAのリーダーをやっている、三年生の武藤良雄です」
リーダーの自己紹介に続いて、先輩達が次々に自己紹介を始めた。メンバーは、三年生の正木あかね、同じく三年の須藤武則、二年の北村雄一、同じく二年の金山俊樹、これが全メンバーだそうだ。これではサークルと言うより、ただの仲良しグループだ。
オレ達も自己紹介をして先輩達に迎え入れられ、サークルメンバーは総勢八人となったわけだ。
「新入生の勧誘は今週いっぱい行うので、君たちも明日から勧誘をお願いします」
正木あかねにそう言われ、オレ達三人は翌日から新入生勧誘で賑わう一角の外れにあるもっとも目立たない場所で勧誘をする事になった。
こんな隅っこで、ましてオタクとしか思えないサークルだ。オレは誰も来ないものと思っていた。しかし、ミズキの美貌が恐ろしい力を発揮した。
AGESAには最も似つかわしくないチャラ男達が次々とやって来た。
「君も新入生だよね? 入学式やオリエンテーションで見かけたよ。君はこのサークルに入ったの? 何のサークル? 僕もここに入っちゃおうかな」
「あなたは先輩なんですか? なんだ、キミも一年生なんだ。キミがいるなら、ボクもこのサークルに入れてもらおうかな」
などと言って入会しようとする。先輩達はオレ達の後ろでおろおろしているばかりだ。
「キミキミ、なんでこんなサークルにいるの? もっと楽しいサークルが有るから、向こうへ行かない?」などと言うヤツさえ現れる始末だ。
ミズキとオレで、サークルの趣旨説明や相手の入会理由などの聞き取りを行った。そして、先輩達を振り返ると、先輩達は首を横に振っている。AGESAには似つかわしくないので断る様にと言う意味なのだろう。オレとミズキは丁重にお断りしていた。
結局先輩達のお眼鏡にかなう人材は現れず、入会者ゼロで勧誘期間が終了した。
AGESAの活動はサークル事務局と称しているリーダー宅に集まって、ゲームをやりアニメを鑑賞する程度だ。時にはゲームやアニメのここが良いとかここがダメだとか、良く言えばディスカッション、傍から見ればただの無駄話をしている。
ゲームやアニメ関係ならば、他の大学にだって同様のサークルは有るのだろうが、AGESAは他校のサークルと交流する事は無い。
交流しない理由は、AGESAの先輩達が生粋のオタク体質だからである。最近のオタク文化を支えているのは、オタクで有りながらコミュニケーションも取ることが出来る人達だが、先輩達にはそのコミュニケーション能力が欠如している。サークルを立ち上げた事自体が奇跡としか思えない。
それでもオレ達はAGESAの活動を楽しんでいた。それまでは全員が集まることは滅多に無いサークルだった様だが、オレ達が入ってからリーダー宅は常に八人のサークル員で満杯状態になっていた。それどころか、サークルの飲み会なども行われる様になっていた。全てはミズキの提案から始まった事だが、なぜか反対するものは居なかった。
大学でのミズキは、暇さえあればオレの周りをうろついていた。そして高校時代と同様に歩く時は腕を組み、まるで恋人同士のような態度で接している。だから、周囲の人間からは当然付き合っているものと思われてしまった。
そんな訳でオレのバラ色のキャンパス生活は、ミズキの到来でいとも簡単に打ち崩されたのだった。
そしてそれは四年間続いた。オレは大学でもミズキの呪縛から逃れる事は出来なかった。




