アイカの結婚式
大学時代のミズキは、いつもラフなジーンズ姿だった。いつもオレやAGESAのメンバーと一緒だった為か、ミズキには男っ気どころか親しく付き合っている女子も居なかったようだ。そのせいでおしゃれなどと言う感覚が芽生えなかったのかもしれない。
結婚式場の前で、オレはミズキのドレス姿にフリーズしていた。
そんなオレに悪戯っぽい笑顔を向けたミズキが言う。
「なに私に見惚れているのよ! ほら、行くよ!」
「おう」 オレはそれだけ言うのが精いっぱいだった。
オレの腕に自分の腕をからめたミズキは、結婚式場へとオレを連行した。
高校の同級生で披露宴に呼ばれていたのは、オレとミズキだけだった。同じテーブルに着いているのは、アイカの友人と坂崎先生の友人で見知った顔はない。アイカの友人達はみな社交的で、坂崎先生の友人達と楽しげに話をしていた。オレとミズキだけが異質な雰囲気を醸し出している。
披露宴自体はごく普通で、坂崎先生とアイカの幸せそうな笑顔を見せつけられてお開きとなった。二次会に誘われたのだが、異質なオレ達が行って良いものかと迷っていると、アイカと坂崎先生が現れ、強引に二次会の出席を決めてしまった。オレもミズキも戸惑いながらそれを了承した。
二次会は新郎新婦の友人だけで、喫茶店を貸し切って行われた。披露宴とは違って、ラフな雰囲気の中、坂崎先生の友人や後輩がやたらとミズキに寄って来る。まあ、ミズキの容姿を考慮に入れれば当然の事なのだが、おかげでオレだけが異質な存在に成ってしまった。
宴も半ばを過ぎた頃、アイカが隅で飲んでいるオレのところへやって来た。
「サガン、何でこんな隅っこで飲んでいるのよ。私の友達、紹介しようか? どの子が好み?」
「オレに好みなんて無いよ。だいたいオレの意思を確認するなんて、アイカらしくないな」
「私だって少しは大人に成ったんだからね。サガンの事をパシリにしていた高校時代とは違うのよ」
「でも、驚いたよな。アイカが坂崎と結婚するなんて。何時から付き合っていたんだよ。まさか高校生の頃からじゃないよな」
「はは、高校生から付き合っていたら、先生はほぼ犯罪者じゃない。まあ、あの頃に声をかけられていたら付き合っていたかも知れないけれどね」
「おいおい、本当かよ。オレは坂崎のこと、苦手だったなぁ。あいつやけに熱血していたからな。ついて行けなかったよ」
「サガンはそうかもね、あんた結構暗かったもんね」
「暗くさせたのは誰だよ!」
「私とミズキだね」
「自覚しているんだ」
そこへミズキが乱入して来た。
「アイカぁ、あいつらうざいんだけれど」
「モテモテのミズキちゃんが逃げて来たか。オッケー、じゃあ、ミズキはサガンとまったりしていなさい。あんた達はお似合いだからね」
そう言ってアイカは席を離れて行った。
「ミズキ、モテモテだったな。あの中に彼氏候補は見付からなかったのか?」
「バーカ、彼氏なんかいらないよ。面倒くさいからね」
「そう言えば、ミズキに彼氏が出来たって言う話は聞いた事が無いよな。クラスでツートップを張っていた片割れのアイカは恋の噂が絶えなかったのにな」
「そうだったね、アイカはいつも恋をしていたなぁ。まぁ、アタシはサガンとまったりしているのが落ち着いて良いよ。サガンには迷惑かも知れないけれどね」
「そうだな、大迷惑だよ。大学時代だって、魅惑のキャンパスラブを目指していたのに、ミズキのせいでパーに成ったからな」
「ふん、アタシが居なくたって失敗しただろうけれどもね。フラれて傷つかないで済んだんだからありがたく思ってよね」
「酷い言い様だな。オレってそんなにモテないかな?」
「それなりにはモテるかも知れないけれど、あんたは鈍感だから必ずフラれるね」
「確定事項かよ!」
喫茶店の片隅でミズキとまったりしているうちに、二次会もお開きとなった。ほとんどの出席者が三次会へとなだれ込む中、オレとミズキはそれを辞退して帰途についた。
「また連絡するね」
オレはそう言って電車を降りて行くミズキの後姿を見送った。




