アイカの新居
坂崎先生とアイカの結婚式から一ヶ月が経った頃だった。ミズキから連絡が来た。
「今度の土曜日に、坂崎先生とアイカの新居へ行く事に成ったよ」
「成ったよって、オレも行くのかよ」
「当然でしょう!」
「あのなぁ、決める前にオレに相談しろよな。オレだって予定ってヤツが有るんだからな」
「だから今日連絡したんじゃない。大丈夫よね?」
「今度の土曜日だな。うん、空いているから大丈夫だよ」
「いつだって空いている癖に、勿体付ける事を覚えたんだね」
「相変わらず酷い言い様だな。たまたま今度の土曜日は空いていたんだよ」
「はいはい。じゃあ、土曜日にね」
土曜日、新居の最寄り駅でミズキと待ち合わせた。駅の改札口を眺めていると、ミズキを発見した。今日のミズキは花柄のワンピース姿だった。
ミズキとは大学を卒業してから疎遠になっていた。どうやらこの二年半ほどで、ミズキもオシャレって言うやつをするようになったらしい。
「待った? じゃあ行きましょう」
ミズキの「待った?」には質問の意味は無い。「おはよう」とか「こんにちは」と同等の言葉だ。たとえ三十分遅れて来たとしても同じだった。つまり、オレがミズキを待つのは当然の事であって、何か特別な言葉をかける様な事ではないのだ。当然、オレにミズキの遅刻を詰る権利など無い。
ミズキはオレの腕に自分の腕を絡みつかせて歩きだす。
オレを引きずるように駅を離れ、坂崎先生とアイカの住むマンションへと向かった。
駅から七~八分で目的のマンションに到着した。新居と言えば新築の真新しいマンションかと思いきや、築三十年は経っていると思われる三階建てのマンションだった。しかし、マンションの前には大きな池を中心とした公園が広がっている為、環境はとても良さそうだ。
エレベーターでマンションの三階へ上ると、廊下の一番奥に坂崎先生とアイカの新居が有った。インターホンのボタンを押すとアイカの笑顔が迎えてくれた。
アイカはオレとミズキを公園に面したリビングルームのソファーへと誘った。
アイカはキッチンで紅茶を入れている。ソファーに座ったオレ達の相手をしているのは坂崎先生だ。高校を卒業してから六年以上経っているが、やはり先生と生徒の感覚は消えていない。オレには居心地が悪かったが、ミズキは平然と部屋中を見廻していた。
「新居と言っても新築マンションじゃないからガッカリしただろう?」
「いいえ、目の前は公園だし、家賃とか結構するんでしょう? 高校教師って給料高いんですか?」
ミズキが遠慮のない発言をした。
「古いとは言っても、都心の3LDKだからな。高校教師の給料じゃちょっとキツイな。実は、このマンションは親父の持ち物なんだ。隣が親父の家でね。この部屋をリホームして新居として住まわせてもらう事にした。親孝行も兼ねてね」
「お父さんは金持ちなんだ」
「そう、親父は金を持っていて、オレは生徒と言う宝を持っている」
ミズキの発言も遠慮が無いけれど、坂崎先生もよく恥ずかしげも無くこんな言葉を発せられるものだ。そのうえ、その宝と結婚しちゃうってどういうことだ!
オレは表情に表れない様に注意して、心の中で毒づいていた。




