オレの労働対価
学校とは勉強をする場所であり、授業という時間が大半を占めている。その為、ミズキとアイカによるオレへの仕打ちも休み時間と帰りのカバン持ち程度で済んでいた。
しかし、俺の下僕生活は平日だけでは済まなかった。
週末、学校は休みなのでオレは朝からゲームに没頭していた。日頃のストレスを解消する為にはRPGが良い。オレは勇者となって仲間を率い、戦闘に赴く。この世界では常にオレが中心だ。オレの意思で全てが決定される世界。なんて心地良いんだ!
そんな世界を打ち破る様に、スマホの着信音が部屋中に響いた。ディスプレイにはミズキの名前が表示されている。オレは一瞬たじろいだが、電話に出ないわけにはいかない。
通話をタップした瞬間、オレの頭の中をミズキの声が駆け巡った。
「サガン今なにしてる? アイカと一緒に駅前のショッピングモールに来ているんだけれど、すぐに出て来て!」
オレに選択肢は用意されていない。しかし、オレは抵抗を試みる。
「今、ちょっと手が離せないんだ」
間髪入れずにミズキの声が返って来た。
「どうせゲームでもやっているんでしょう? ゲームなんかよりアタシ達に付き合った方が良いと思うんだけれど……。すぐに来るでしょう?」
否応無しかよ! オレはスマホの画面を見つめながら言った。
「わかった、すぐ行く」
情けないがオレの返答はこれしか用意されていない。
ついさっきまで浸っていた、オレ中心の世界が懐かしい。
駅前でふたりと合流した。ふたりの美少女はニッコリと笑いオレの両側に立つ。そして、まるで犯人を連行するがごとく、オレの両腕にそれぞれの腕を絡めて歩き出す。傍目にはモテモテ男に見えているはずだ。
すれ違う男達はオレを羨望のまなざしで見る。しかし、この後オレに課せられる事態を彼等が想像する事は無いだろう。
オレはミズキとアイカによって、ショッピングモールを引きずりまわされるのだ。そして大量の買い物をする。そして彼女達は言うのだ。
「サガン、お願い」
当然荷物を持てと言う事だ。オレはふたり分の荷物を持ち、美少女達の後ろをついて行く。前からはふたりの屈託のない会話が聞こえて来る。
「アイカぁ、サガンが一緒だと助かるよね」
「うん、今日はいっぱい買い過ぎちゃったからね。アイカ、こんなに荷物持てないもの」
まるで感謝の気持ちが感じられない。ふたりにとってオレの存在は何なんだ!
そんなふたりではあったが、別れ際になると「今日はサガンのおかげで助かったよ。ありがとう」などという言葉を発する。当然心から言っている訳ではないと思いつつ、オレの顔はニヤケてしまうのだ。
別の週末、オレのスマホにミズキの名前が表示される。
「サガンさぁ、今日は家に遊びに来ない?」
女子にこんな事を言われたら、大概の男は喜ぶものだろう。しかし、オレは嫌な予感に苛まれる。しかし、ここでもオレの返答は一つしか用意されていない。
「わかった、すぐ行く」
ミズキの家は二階建ての戸建て住宅だった。二階に有るミズキの部屋は、オレの予想に反して雑然としていた。インテリアも木製とスチール製・プラスチック製が入り乱れ、色彩にも全く統一感が無い。可愛い女の子は可愛い部屋に住んでいると思うのは、男子の幻想なのだろうか?
「なにをジロジロ見ているのよ! どうせきたない部屋だな。とか思っているんでしょう?」
「いやいや、そんな事は無いよ。ただ、可愛くない部屋だなぁと思っただけだよ」
たぶんオレの顔はニヤついているだろう。なんだかミズキの弱点を見付けた様な気がしていた。
「そうなんだよね、そこで今日はこの部屋の模様替えをしようと思ったのよ。だからサガンを呼んだの。手伝ってね」
当然オレに拒否権は無い。
「えっとね、家具は全部一階の納戸に運んで欲しいの。そして新しい家具の組み立てと設置をお願いね」
「ひとりで?」
「そうよ。だって、パパはゴルフに行っちゃったから、男手が無いのよ。だからサガンを呼んだんじゃない。いっぱい働いてね」
オレは夕方までかかってミズキの部屋の模様替えを行った。さすがにまとめて買った家具は統一感が有り、以前とは比べ物にならないほど可愛らしい部屋になった。
「ご苦労さま、やっぱり男の子は頼りになるね」
オレの一日がかりの労働対価はその言葉だけだった。
そんな生活が約二年続き、オレ達は高校を卒業した。
オレは大学に進学する為、親元を離れアパートでの独り暮らしを始めていた。




