三つのカバン
放課後がやって来た。今日一日が終わろうとしているのだ。
オレは学校でこれほどの精神力を使用した事が無かった。既に頭はボーとし、なにも考える事が出来ないレベルにまで達していた。オレの思考は「早く家に帰るんだ!」その一点に集束していた。
そんなオレの前に現れたのは、またしてもミズキとアイカだった。
「サガン、一緒に帰ろうよ」
このふたりは状況が解っていないのか? それ程頭が悪そうには思えない。たぶん学力ではオレより上だろう。もしかして、これも昨日の仕返しなのか? その可能性は充分あると思う。ここは逃げに徹する事にした。
「ゴメン、オレ急いで帰らなくちゃならないから……」
「ダメダメ! ひとりで帰ったら、男子達の待ち伏せに遇っちゃうよ」
アイカは可愛い顔をして恐ろしい事を言う。
「そうだよ、アタシも『嵯峨を許しておくわけにはいかない!』って言っている男子を見かけたよ。ね、だから一緒に帰ろうよ」
ミズキまでが恐ろしい事を言い出した。まさか本当に待ち伏せをしているとは思わないが、絶対に無いとも言い切れない。あの痛いほどの視線を考えれば……。ひとりで帰ると言う危険を冒す事は得策では無い気がした。
「わかった、一緒に帰ろう」
ミズキとアイカが同時に笑みを浮かべた。この様な危機的状況に陥っているにも関わらず、オレの顔はニヤケてしまう。全く情けない限りである。
「良かった、じゃあカバン持って」
「私のカバンもお願いね」
意味が解らなかった。何故オレがミズキとアイカのカバンを持たなくてはならないのか?
「オレがカバンを持つのか? なぜ?」
「だってサガンは男の子じゃない。アタシ達が一緒に帰ってあげるんだからそのくらい当然でしょう?」
当然なのだろうか? オレは女子と一緒に帰った事は今まで無かった。ゆえにカバンを誰が持つべきなのかはわかっていない。しかし、カバンと言うものは、それを使用している者が持つべきなのではないだろうか? 疲労でとろけてしまっている脳で考えてみたが、結論を導き出す事は出来なかった。
オレはミズキとアイカと自分のカバンを持って立ちあがった。
「わかった、じゃあ帰ろう」
オレは男らしく? 宣言をした。
オレを突き刺していた視線も日ごとに弱まり、二週間もするとすっかり元に戻っていた。そして、下校時に三つの通学カバンを持つオレの姿は有名になっていた。
男子達の声は、『いいなぁ、俺もあんな風に女子と絡みたいなぁ』とか、『いいなぁ、あんな可愛い女子だったら何でも有りだよなぁ』などと、ミズキとアイカを賛美するものになっていた。
女子達の声は『男子もああなっちゃ情けないよね』だったり、『男子に荷物を持たせるなんて、いくら可愛いからって酷いよね』など、オレへの蔑みと、ミズキとアイカへのやっかみともとれる言葉へと変わって行った。
どちらにしても、オレの情けなさは全校に知れ渡ってしまった様だ。




