針のむしろ
オレの通う高校は最寄りの駅から十分ほど歩いた所に有る。駅前商店街を抜けた所から、校門に向かって急な上り坂が有る。生徒達の間では『遅刻坂』と呼ばれている。ギリギリの時間に登校すると、この坂に阻まれ遅刻してしまうと言う、それほどキツイ坂だった。
オレが遅刻坂の中腹に達した時だった。サッカー部に所属する友人がオレの背中を軽く叩き「おはよう!」と声をかけて来た。さすがサッカー部員だ。オレの様な文化部所属の万年運動不足野郎とは大違いのスピードで追い付いて来たのだ。
「翔太、お前噂になってんぞ」
「オレがうわさ? オレは目立つ様な事、何もしていないぞ」
「いやいや、昨日の夕方からSNSで広まっているぞ!」
そう言ってスマホの画像を見せてくれた。それはオレとミズキ・アイカの三人がアイスクリームショップでアイスを食べている画像だった。誰かに見られていたらしい。
「誰から回って来たんだよ」
「誰からじゃねえよ! 『美少女達に恋人か?』とか『美少女達と三角関係の男』とか言って、学校中に広まっているぞ!」
「なんだよそれ!」
「まあ、仕方ねえよ、あのふたりとだからな。あいつらの男子人気はすごいから、お前は全校男子の敵になったわけだ」
そう言われて辺りを見ると、オレの方をチラチラと見ている男子がいる。こそこそと話をしている女子もいる。「いったいなんなんだよ!」と思ったが、逆の立場だったらオレも同じ態度を取るだろう。ここは我慢しなくてはいけないのだろうとあきらめる事にした。
針の様な視線にさらされたオレは、いつもの倍近いスピードで教室へと逃げ込んだ。我ながらこんな体力をどこに隠し持っていたのだろうか?
教室に入ったとはいえ、針の様な視線が無くなったわけではない。同級生と言っても、半数以上は未だに話しをした事のない生徒だ。オレとしては熱が冷めるまでそっとしておいて欲しかったのだが、ミズキとアイカにはそんな考えは無い様だった。
「ねえサガン、これ知ってる?」
ミズキが自分のスマホを差し出した。そこにはさっき見せられた画像が表示されていた。
「うん、さっき見せられた。既に全校男子がその画像を持っているみたいだ。持っていないのはオレぐらいじゃないかな?」
「アタシ達が何をしていたって良いじゃないねぇ。サガンは気にしないでね」
ニッコリ笑うアイカの笑顔に、オレの頬が緩む。その途端、数多の視線が鋭い針となってオレに突き刺さる。
「アタシ達は平気だから! サガンも平気な顔をしていてね」
そう言いながらミズキがオレの手を握る。またしても視線の針がオレの身体に突き刺さった。
気を抜けるのは授業中だけだった。休み時間になると教室の中だけではなく、廊下の入り口辺りからも鋭い視線がオレに注がれた。オレは生まれて初めて、「授業を終わらせないでくれ! もっと授業を!」 などと思いながら一日を過ごしていた。




