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最悪の出会い

 それはオレが高校二年に成って間もない頃だった。オレと友人は昼休みの教室でふざけていた。そのふざけ方は、中学生どころか、小学生並みのふざけ方で有ったのだが、それがあのような事になるなんて……。


 オレは友人の四の字固めから抜け出そうともがいていた。しかし、シッカリ決まった技はそう簡単に抜けられるものでは無い。抜ける事をあきらめたオレは、近くに有った机の脚を掴みロープブレイクを要求することにした。

 机の脚を掴み引き寄せた時だった。

「キャッ」

 声と共に、オレが掴んだ机はバランスを崩して傾いた。その机に腰掛けていた女子が、傾いた机の上を滑りながら落下して来たのだ。女子の尻はオレの顔面に着地し、オレの鼻からは真紅の液体が流れ出した。

「アイカ、大丈夫?」

「う、うん、大丈夫だと思う」

「アイカ! お尻から血が出ているよ!」

「えっ?」

「大変! 保健室へ行こう」

 オレの顔面に落ちて来た女子と、その友人は廊下へと消えて行った。

 確かにめくれたスカートの下に垣間見えたパンツには、真紅の液体が付着していた。しかし、冷静に考えてくれ! それはオレの鼻血だ!

 女子ふたりが居なくなると、友人がニヤニヤしながらオレに近寄って来た。

「翔太、ラッキーだったな。女子のケツにキスするなんて、なかなか出来ないからな」

「ふざけるな! お前のせいでとんでもない目に会ったんだぞ! アイテテテ」

 オレは鼻血を流しながら友人の理不尽な発言をなじった。

「まあまあ、そんなに怒らないで。保健室に行った方が良いんじゃないか?」

「大丈夫だよ! ティッシュを詰めておけば止まるさ」

 保健室にはさっきの女子が居るはずだ。行けば当然顔を合わせる事になる。オレはそんな危険極まりない場所へ行きたがるほどの冒険者では無い。

 カバンからティッシュペーパーを出し、丸めて鼻に詰め込んだ。


 今日の授業も全て終了し、帰り支度をしていたときだった。ふたりの女子がオレの前に立ちはだかった。女子との交流など無いオレの前に立ちはだかる女子は、当然昼休みに発生した悲しい事故の被害者とその友人であった。

 アイカと呼ばれている女子は確か、吉井愛香よしいあいか、もうひとりは浅井瑞希あさいみずきだったと思う。ふたりとも二年に成った時のクラス替えで同じクラスになった女子だった。それ以前に面識は無い。

 浅井瑞希が俺の正面に立ち、吉井愛香は一歩下がった位置にいた。

「あんた、嵯峨翔太だよね。アイカに謝りなさいよ!」

「あっ、あれは事故で……ごめんなさい」

 突然の事で慌てていたオレは余計な事を言ってしまったようだ。

「事故ってなによ! あんたが一方的に悪いんじゃない!」

「ごめんなさい、そんなつもりじゃ無くって……」

「そんなつもりってなによ! あんたがアイカのお尻を触ったところだって見ているんだからね! 本当は計画的だったんじゃないの!」

 お尻を触った? オレはその時の情景を思い浮かべた。スローモーション動画がオレの脳内で再生された。


 四の字固めに苦しむオレが机の脚を掴むと、机がゆっくりと傾き出した。

「キャッ」と言う悲鳴と共に、吉井愛香がゆっくりと机の上を滑って来る。

 机の端に吉井愛香が到達し、そこから落下を始めた。

 白地に青い魚が泳ぎまわっているパンツがオレの顔面へと向かって来る。

 オレは自分の頭部を守る為、無意識に両手を顔の前に移動しながら目を閉じた。

 頭部と眼球を守る為の自衛行動だ。


「あっ! いや、あれは触ったのでは無くて、頭部を守る為の自衛行動で……」

「なに言ってんのよ!」

「はい、ごめんなさい」

 言い訳など聞いてもらえる状況では無い様だ。

「罰として、駅前でアイスクリームおごってよ。ね、良いでしょ?」

 浅井瑞希が笑みを浮かべながら言う。オレは不覚にも『カワイイ』などと思ってしまった。

「はい、おごらせていただきます」

 即答したオレは、『これが恋の始まりってヤツなのだろうか?』などと思ってしまったのだが、世の中はそんなに甘くは無かった。


 その日からオレの下僕げぼく生活が始まったのだ。


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