招待状
ある日、オレの元に結婚式の招待状が届いた。
宛名には嵯峨翔太様と書いて有る。確かにオレ宛ての招待状だったが、差出人を読んでオレは訝った。
差出人の欄には坂崎幸一と書かれていた。坂崎幸一とは高校の時の担任教師の氏名だ。しかし、オレは高校を卒業して以来、坂崎先生との親交は無い。高校時代でさえ、決して親しい関係では無かった。と言うより、出来ることならば近付きたくない存在であった。
結婚式の招待状には新郎新婦の連名が記されているのが常識だろう。そのくらいはオレでも知っている。なのに、この招待状には坂崎幸一の名前だけしか書かれていないのだ。
「なぜ先生から結婚式の招待状が?」オレは不審に思いつつも封を開いた。
封筒を開き、招待状を出そうとすると、ふたつに折り畳まれた一枚の紙片が落下した。オレは落下した紙片を拾い上げた。その紙片には手書きのメッセージが書かれていた。
サガンくん、こんにちは。
アイカです。久し振りね。
アイカは坂崎先生と結婚することに成りました。
ビックリしたでしょう?
ミズキにも招待状を送ったから一緒に来てね。
アイカとミズキは、高校のときに同級生だった女子だ。そしてサガンと言うのは、アイカとミズキが付けたオレの呼び名だった。
サガンとは、当時女子達の間で流行っていた「悲しみよこんにちは」って言う小説を書いた作家の名前だ。女子には人気があったようだが、オレは読んだ事が無い。かなり古い小説だけれど、その当時映画化された為に流行ったようだ。女子達の間ではラブストーリーだと言われていたようだ。しかし硬派な文学青年である友人によると、『この小説は女好きの父親と一緒にバカンスに訪れた娘が父親の再婚相手を陥れる話で、病んだ少女の計略・陰謀・悪意に満ちた偏執的恋愛譚だ』と語っていた。これだけ聞くと酷い話だ。友人の偏見丸出しの面持ちが今でも目に浮かぶ。
アイカとミズキが、そのサガンの名前をオレの苗字の嵯峨に引っかけただけで、それ以上の意味は無い。だから、オレにとっては小説の内容などどうでもよかった。
久しぶりに目にした「サガン」と言う呼び名に、オレはミズキとアイカとの最悪な出会いを思い出していた。




