ミズキの恋は何処に?
「ねえ、これからサガンの部屋で飲まない? ビールとかつまみとか買ってさぁ」
坂崎先生の新居からの帰り、ミズキが言い出した。
「オレは別に良いけど……」
「じゃあ決まり! スーパーに寄って買い物して行こう」
オレとミズキはスーパーで買い物をしてオレのアパートへ向かった。
部屋に着くなり、ミズキが言った。
「ねえ、スウェットか何か貸してよ。その方が楽だからさぁ」
「はいはい、オレのしか無いからデカイぞ」
「いいよ、どうせサガンしか居ないんだから」
ミズキは洗面所でオレのスウェットに着替えた。オレはその間にグラスや皿の用意をしながら、「やっぱりオレって下僕体質なのかなぁ」などとつぶやいていた。
「なんか言った?」
「いや、なんでもない」
やはりミズキにはオレのスウェットは大き過ぎる。ズボンはダボダボだし、袖はいくらめくってもすぐに落ちて来て、いわゆる萌え袖状態だ。
「なに? アタシに見惚れているの?」
「ば、ばかな! そんなはず無いだろう。スウェットがデカイなって思っただけだよ」
オレは若干うろたえていた。ダブダブスウェット姿のミズキが、こんなに可愛いなんて思わなかった。アイカの結婚式で見たドレス姿も良かったが、これも良い。
ミズキはオレの正面に胡坐をかいて座って、当然の様に空のグラスをオレの方へ突き出す。オレは缶ビールを開け、ミズキのグラスにビールを注ぐ。自分のグラスにもビールを注ぎながらミズキの様子をうかがう。
オレはこの短時間に妄想の世界へと入っていた。
自分のグラスにビールを注ごうとしていたオレにミズキが言う。
「アタシが注いであげるよ」
オレの手から缶ビールを取り、オレのグラスにビールを注ぐ。
注ぎ終わった缶ビールをテーブルに置き、ニッコリ笑うミズキ。
「か、かわいい……!」
ミズキはそんなオレに気付いた様だ。
「なに? また変な事を考えているんでしょう」
「別に変な事なんて考えていないよ。ただ、オレにビールを注いでくれたりしないのかなって思っただけだよ」
「下僕にお酌をする姫は居ない!」
ミズキはハッキリと言い切った。
「おっしゃる通りです」
オレは微かな期待をした自分を責めた。
ビールの酔いがまわって来ると、ミズキはオレに絡み始めた。
「あー、なんでアイカはあんなに幸せそうなのに私は幸せに成れないのよ! おい! サガン。アタシを幸せにしなさいよ!」
「幸せにしろって言われたって……。ミズキはオレにどうして欲しいのさ」
ミズキはオレをじっと見つめた後、天井に目をやってつぶやく。
「アタシの恋はどこで何をしているのよ」
「知るか!」って思ったが、その思いは心の奥底に押し込んだ。そんな言葉を口にしたら大変な事になるのは目に見えている。
ミズキと酒を飲むのは大学生の時以来だった。その頃のミズキがこんな酔い方をした事は無かった。
「ねえ、サガンはアタシの事どう思っているのよ!」
「どうって……」
「ハッキリしない奴だなぁ。もっとしっかりしろよ! そんなじゃ幸せが逃げちゃうぞ!」
「はいはい、姫様」
「なにが姫だ! どうせ面倒くさい女だと思っているんだろう!」
「なんでオレに絡んでいるんだよ。今日はアイカの幸せを祝ってあげようよ」
「サガンは優しいよなぁ……良い奴だよなぁ……」
「おい! ミズキ、寝るなよ!」
ミズキはそのまま眠ってしまった。しかたが無いので、寝ているミズキに毛布を掛けてから、オレは片付けを始めた。片付けが終わっても、ミズキは小さな寝息を立てている。
オレは寝ているミズキの顔を暫く眺めていた。見つめているとなんだか妙な感情が湧きあがって来た。オレはミズキの頬にそっとキスをしていた。
オレはオレ自身の行動に驚いていた。今までミズキに対して、そんな感情を持った事は無かった。いや、たぶん無かったと思う。いやいや、無かったはず……。
ミズキは相変わらず小さな寝息を立てている。今夜は起きそうも無いので、オレは自分のベッドにもぐり込んだ。なかなか眠ることが出来なかった。
窓の外が明るく成り始めた頃、オレは眠りに落ちて行った。




