7話
「みんな、大丈夫か!?」
土煙の向こう側に問いかける。
視界のほとんどが遮られているが、最後の瞬間だけは確認できた。
あの魔物が放った一撃が、ダンジョンの壁や天井を破壊したのだ。
ベルアスは、直撃はしていないはず。
それにキャティの容体も心配だ。
だが今はまず、階段に逃げ込んでいた仲間達の安否を確認する。
そして問いかけに、次々と声が応える。
「あの馬鹿、死ぬならひとりで勝手に死んで欲しかったわ。まさかこんな派手な自殺に巻き込まれかけるなんて」
「私は無事です! けれど崩落して、道が……。」
イルシーアに続いて、ルリアの声が煙の向こう側から聞こえてくる。
そして気付いてみれば、階段の殆どが崩落して塞がっていた。
向こう側には、ルリアとイルシーア、そしてハティアがいるのだろう。
つまり俺達は分断された形だ。
これをあの魔物が狙っていたかは定かではない。
しかし今の状況を考えると、考えうる中で最悪の状況だった。
いや、最悪から二番目か。
「俺のことは、気にしなくていい。地上に戻ってくれ」
「そんなこと言わないでください! ハティア、どうにかしてこの壁を壊せませんか!?」
「できなくはないわ。けれどこれ以上の衝撃を与えたら崩落が広がるわ。そうでなくとも、今でも相当危険な状態よ。もう一度崩落すれば、きっとアタシ達も巻き沿いを喰らうことになる」
ルリアの声を聴いて、心が揺らぐ。
ほかの救助部隊が来る可能性もあるが、それまであの魔物の相手をしなければならない。
そもそも救助部隊がきたところで崩落した階段を突破できるかは怪しい。
小部屋に逃げ込み時間を稼げれば、生き残ることもできるだろう。
だがここはダンジョンの最下層だ。
あのサソリの魔物でなくとも、普通の魔物と出くわしただけで俺に対抗する手段は殆どない。
ローブも先ほどの崩落で破れ、殆ど効力を失っている。
状況で言えば、この状態は詰みに近かった。
「申し訳ないけれど、私は付き合ってあげられないわ。ここで死ぬのは御免よ」
イルシーアの声が徐々に遠ざかっていく。
音からして上層階へと向かったのだろう。
「……ルリア、いきましょ。今は救助部隊との合流を目指すの」
「待ってください! なら私もここで――」
「そうじゃないだろ。ルリア、『ミラ・レス』を……お前の故郷を、魔物から取り戻すんだろ。ならここで立ち止まるべきじゃない」
「ですが、それでも私は……。」
音が聞こえていた。
石を退かしている音が。
きっとルリアが俺を助けようとしてくれているのだ。
だがその行動でルリアも犠牲になってしまったら、元も子もない。
それはなにより、俺が望まない結果だった。
このダンジョンに飛び込んだのでさえ、ルリアを助けるためだったのだから。
すすり泣くルリアを慰めていたハティアの声が、壁の向こう側から聞こえてくる。
「助けに来てくれたのに、見捨てる様な形になっちゃったわね」
「申し訳ないと思うなら、ルリアを頼む。彼女には、『燐光の召命』の力が必要なんだ」
「わかったわ。私が責任を持って、彼女の力になる」
「それを聞けて、安心したよ」
「ま、待ってください! ハティア、私はここに残ります! だから降ろしてください!」
「……せめてこれを使って。それと、ごめんなさい、ありがとう」
僅かな隙間から押し込まれてきたのは、ハティアの持っていた霊薬やポーションだった。
最後の最後で律義な彼女の行動に思わず苦笑を浮かべる。
この魔物やマンティコアでなければハティアも後れを取らないはずだ。
彼女なら安全にルリアを地上まで送り届けてくれるだろう。
なんせ、星銀級冒険者だ。
これで思い残すことがないと言ったら嘘になる。
だが俺にできることは最大限やったつもりだ。
後はルリアの実力と信念が、街の奪還という目的を成すことを願うしかない。
「ジノア!」
遠くから聞こえるその声に、胸が痛くなる。
ここから逃げ出したい。
死にたくない。
「生きてくれ、ルリア」
ハティアから渡されたポーションをあおる。
まだやるべきことがここで残っているからだ。
ベルアスとキャティの様子を確認しなければ。




