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34話


「オーレリア!」


「来たか。遅いぞ」


「久々だってのに辛らつだな。それで、この武器の量は一体……。」


 馬車がヴィダール近郊の野営地に到着するなり飛び込んできたのは、無数の武具や兵器が並べられた光景だった。

 一年前の散発的な護衛戦など比にならない、これは完全に戦争の準備だった。

 出迎えたオーレリアの銀鎧も、鏡のように磨き抜かれている。


「見ての通り、戦の準備だ。明星連合の長であるギルガーが、ヴィダールの支配権を主張している。見ての通り、既に占拠された後だ」


「それじゃあ、領地に入ることもできないんじゃないか?」


「いいえ、そこは王族の権限を行使します。不当な占拠として、ギルガーからヴィダールを奪還します」


 馬車から降りた王女が事も無げに宣言する。

 正当な理由を作ったとはいえ、強行突破の口実に過ぎないことは誰の目にも明らかだった。

 とは言え、大義名分ができたのであれば遠慮することはない。

 問題なのは、この見え透いた挑発的な行動をとっている明星連合のほうだ。

 

「向こうは魔神と契約できれば、後のことはどうとでもなると思っているみたいだな」


「事実、そう聞いている。精霊なきこの時代に、魔神を止められる者は多くない」


「別途増援も呼んであるわ。もしもの時に備えてね」


 エリーシア王女が不適の微笑むが、保険があるからと言って現状が覆るわけではない。

 むしろ魔神の復活を許せば、勝機は完全に失われる可能性もなくはない。

 まずは第一に、魔人の復活を阻止することが最優先だろう。

 

「エリーシア王女殿下、ようこそいらっしゃいました」


 そこへ、後方から兵士たちに指示を出していた人物が歩み寄ってきた。

 見覚えのある顔ですぐに気付く。

 ランガーヴィル領の領主、フーベルだ。


「準備は進んでいるようで、なによりです。此度の指揮はまかせましたよ」


 この戦の指揮にフーベルを任命したのはエリーシア王女なのだろう。

 フーベルの方も覚悟を決めているのか、貴族らしからぬ戦の装いだった。

 そしてその視線が、王女からこちらに向けられる。


「お久しぶりです、フーベル侯爵」


「やはりジノア君だったか。やはり若者は少し見ないだけで、見違えるね。これなら我々も安心して戦えるというものだよ」


「期待に応えられるよう、最善を尽くします」


「その最善は全員が生きて帰ることだ。無理はしないでくれよ」


 フーベル侯爵の温かな言葉に、俺は短く頷いた。

 ここに集められたのは、国の命運を賭けた防衛線に立つ決死の兵たちだ。

 その重みを胸に刻み、俺は戦場となるヴィダールを真っ直ぐに睨み据えた。


「魔神が復活する前に叩く」


「わかっている。そう気負うな」


 開戦の笛が鳴り響き、戦士達が雄叫びを上げる。

 そしてフーベルと並んでいた王女が、号令をかける。


「皆さん、勝利を!」


 轟く兵士達の声と共に、進軍が始まった。。


 ◆


 開戦の合図と同時に遥か前方の城壁で強烈な爆発が起きた。

 巨大な質量が落着し、大地そのものが大きく揺れる。


「この音は……。」


「ロサの流星魔法だ。さすがの威力だが、砕くには至らないか」


 土煙が晴れた先、魔法都市の防壁は僅かなヒビすら入っていなかった。

 上空を覆う半透明の魔力結界が、ロサの最強の魔法を完全に相殺したのだ。

 兵士達の勢いも、僅かにそがれる。


「とんでもない城壁だな」


「ヴィダールは長い歴史を持つ魔法都市だ。当然、外部からの攻撃に備えた防御機構も備えている」


「厄介だな。このまま膠着状態になったら、中の連中が復活の儀式を強行するかもしれない」


「どうにか内側へ入り込み、防壁を無効化できればいいのだが」


「いや、それじゃあ時間がかかりすぎる」


 事前の説明でも、明星連合の作戦の全貌を把握しているわけではない。

 そのためどれだけの時間的猶予があるのかもわかっていない。

 少なくとも悠長に開く方法を模索している余裕はないだろう。

 

「どうするつもりだ?」


「破壊する」


「それができれば苦労はしない」


 オーレリアのもっともな返しを聞きながら、障壁へと近づく。

 その名の通り、魔法都市の誇る魔法による障壁。

 ロサの魔法を防いだ通り、その頑強さは目を見張るものがある。

 だが無敵、という訳ではないだろう。


 魔法を使うなら魔力が必要になる。

 そしてその流れを、眼で追っていけば――


「ここか」


 ただ一振り。

 障壁を支える魔力の供給源を、断ち切る。

 降りぬいた剣から伝わる、確かな手ごたえ。

 青い残光がほとばしに、分厚い魔力の障壁が砕け散る。


 降り注ぐガラスのような魔法の残滓。

 兵士達の歓声と驚愕の声が耳に届く。

 それらを尻目に、剣を鞘へと戻した。


「い、一撃で防御機構を……。まさか、『空の息吹の剣』を使ったのか?」


「いいや? 『空の息吹の剣』は、緋月の魔笛と共鳴する可能性があるからな。以前使ってた、お古を持ってきた」


「普通の剣でその威力、なのか?」


 信じられないと目を見開くオーレリアに肩をすくめる。

 実際には目の力なのだが詳しく説明していては時間を浪費する。


「修練の成果だ。行くぞ」


 それだけ答えて、障壁の内側へと踏み込む。

 魔法都市ヴィダールへの侵入は、つつがなく成功した。

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